暁の空

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『ソラがなく』

今日も人間や人型だけでなく足がキャタピラになったさまざまなロケットが忙しく道を行き来していた。
「ねぇ⋯」
白いワンピースを着た少女は通りかかる人たちにその小さな手を伸ばし声をかけるが誰一人、少女には気づかずそのまま少女の前を通り過ぎていく。少女はギューッと持っていた手作りの人形を抱きしめた。
と、少女は大学生ぐらいの男の人と目が合った。
「ねぇ」
少女はそう言い大学生に近づいた。
「ひぃっ」
大学生悲鳴を短くあげ足早にその場を去っていった。少女は悲しい顔でその背中を見送った。
トボトホと俯きながらどこをどう歩いたのだろうか。白い橋を渡るとそこには様々なロボットが山のように捨てられていた。
「おや、珍しいお客さんだね」
始めてきた場所に立ち尽くしていると、そんな声がした。見てみると、そこには半分、壊れて顔の中身が見えてしまっている青年のロボットがいた。
「お兄ちゃん⋯私とお話してくれるの?」
すると青年はまるで人間のように首を傾げた。
「それはどうゆう意味だい?」
「あのね、みんな私を無視をするの」
青年は上から下まで女の子を見た。
「んー。君はどこから来たんだい?」
「どこから⋯」
少女は繰り返し考えはじめるが、何も思い出せず、顔を歪めた。
「あー!えーっと、なら僕とお話するかい?」
泣きそうな少女に青年は動く左手を差し伸べ慌てたように言った。
「いいの?お兄ちゃんは逃げたりしない?」
今まで泣きそうだった顔がパァーっと明るくなった。
「もちろん。君、お名前は?」
「向日葵!」
青年は笑みを浮かべた。
「向日葵。可愛い名前だね」
「うん。お母さんがね⋯お母さん⋯」
その時、頭に激痛が走り向日葵はその場にしゃがみ込んだ。遠くで女性の叫ぶような声で自分を呼ぶような声がした気がした。
「大丈夫かい?!」
「うん⋯」
向日葵は顔を上げた。
「なんだろ⋯誰かに呼ばれた気がしたの」
「呼ばれた?」
青年は少し黙り込んだ。
「ねぇねぇ」
少女の声に青年は顔を上げた。
「お兄ちゃん、お名前は?」
「名前?僕はH258アンドロイドだよ」
「そのお名前呼びにくいよ⋯ソラって呼んでいい?」
唐突は提案に青年は驚いた表情をした。
「ソラは⋯ここからどこかに行かないの?」
聞かれたソラは苦笑いを浮かべた。
「生憎、僕の足は壊れちゃってね。動かないんだよ」
「そしたら私が見てきて話してあげる!」
そう言い向日葵は笑った。
その日から向日葵は、街をぶらつきそこで見たこと、今日あったことをソラに話すようになった。
ある日、いつものように話していると空からゴロゴロと雷が鳴る音がした。しかし、向日葵は気にせず話続けた。
「あのね!今日ね花束がある道の信号を渡ってたらね、急に車が⋯車⋯」
再び、向日葵の頭に痛みが走り顔を歪めしゃがみ込んだ。その時、ドカン!と大きな音ともにソラに雷が落ちた。
ハッとし向日葵は立ち上がるとソラに駆け寄った。
「ソラ!大丈夫?」
バチバチと火花を散らすソラを泣きそうな表情を浮かべ向日葵は見つめた。
「なカなィで⋯ヒマわリハわらッテいたほうガかわイいヨ。ごめんネ⋯モウおしゃベリはむリミたイだ」
「なんで?だってソラは逃げないで一緒にいてくれるって」
ポロポロと涙を流す向日葵にソラは苦笑いをした。
「ひマわり。ぼくノおネガいきいテくれナイかい?」
無言で向日葵はウンウンと何度も頷いた。
「ヒまわリがくるマにひかレそう二ナッタみちにイッてほしイんだ。キット⋯ソコにヒマわりノハナしあいてガいるかもシレナイヨ。イケルカイ?」
向日葵はまたウンウンと小さな首を何度も縦に振った。
「アリガトウ。サァイットイデ」
「でもまだソラといたいよぉ」
小さな手で流れる涙を何回も拭いながら言う向日葵にソラはまた微笑んだ。
「ボクハチョットネムインダ。ヒマワリハ、ボクヲネカセナイヨウナイジワルナコトヲスルノカイ?」
向日葵ブンブンと首を横に振った。
「アリガトウ。サァイクンダ」
ソラに促され向日葵は振り返り振り返り橋を渡りその姿は見えなくなった。
「カミサマドウカヒマワリガモウクルシマナイトコロ二イケルヨウニ⋯」
そこでソラは動かなくなった。目からスーッと雫がこぼれ落ちた。
小さな足を一生懸命に走らせ向日葵はソラと約束した道に来た。
「ソラ⋯ソラ⋯お母さん⋯」
「向日葵」
名前を呼ばれ顔を上げた向日葵はパァーっと笑みを浮かべ呼んだ相手に抱きついた。そして2人はスーッと消えていった。

そんなことを知らず相変わらず日々は過ぎ人々もロボットも今日も忙しそうに歩いていく。
ふと、道を見ると赤い文字でお願いと書かれた下に『この場所で○年9月12日午後7時頃に親子のひき逃げ事件が起きました』と書かれた看板が置かれその下には花束と手作りの人形がロボットのおもちゃに寄りかかるように置かれていた。


BUMP OF CHICKEN『ダンデライオン』を聴きながら

9/17/2024, 7:40:08 AM