「君と見た虹」
雨上がり子どもたちが楽しそうにはしゃいでる。
その声が聞こえないようにそっとイヤホンをつけた。
ノイズキャンセリングに感謝しながら帰路に着く。
ふと懐かしい音楽が流れてきて、あの頃の情景が目に浮かんだ。
「早くかえろー」
「ちょっと待って!」
僕はランドセルを背負って彼女に駆け寄った。
3軒隣に住んでいる幼なじみ。
その日は雨が降って水たまりがたくさんできていた。
「ねえねえ!水たまりに虹が出てるよ!」
お昼過ぎまで降っていた雨で興奮した様子の君に手を引かれ、水たまりを覗き込む。
そこには虹に包まれた僕たちが映っていた。
時折風に吹かれて虹が回る。
彼女は不思議そうにつま先をちょんとつけた。
はしゃいだ様子でこちらを見る。
水面に映る君の顔が見えなくなって、ふと横を見ると、その笑顔はあまりに眩しく僕はそっと視線を逸らした。
今では見ることができないその笑顔をもっと見ていれば、と音楽を聴きながら少し後悔した。
思えばあの頃からずっと目を逸らしてきたのかもしれない。
君を好きになっていた僕にずっとあの笑顔を見せてくれる君を意識すればするほど話せなくなった。
成人式で再会した彼女はすっかり大人っぽくなっていた。途中でやめた日記を今更埋めていくように、僕は彼女に話しかけた。
「久しぶりー!」
「久しぶり!元気にしてた?」
「なんとかやってるよ。そっちは?」
「絶好調!仕事も楽しいし彼氏もできたんだよね!」
「そっか!おめでとう!」
つい反射で言ってしまった。
今でもあの頃のように話しかけてくれる君に、僕ははじめて君の笑顔を真似して嘘をつくしかなかった。
その帰り道、あの時と同じ水たまりが目の前にあった。
覗き込んでも彼女は見えなくて、彼女の真似をして作った笑顔は僕の気持ちを映すように笑ってくれない。
正直な水たまりの僕を、嘘つきの僕はただ踏みつけるしかなかった。
2/22/2025, 6:14:51 PM