薄暗い雲が覆う外の世界と隔絶された大講義室にひそひそとした話し声とシャーペンのはしる音がこだまする。厳かな雰囲気を醸し出す教壇には誰もおらず、代わりに黒板には大きく自習の文字が飾られていた。
次の講義に向けたとは名ばかりの調べ物を強要させられる、正直言って意味の分からない講義。ならいっそのことなくせ、という意見はおそらくここにいる全員の主張であろう。
ネットが発達した昨今。調べ物にかかる時間はそれほど多くなく、大半の生徒が机と熱い抱擁を交わしている。
かくいう私も声を出すのが憚れる空気を前に手持ち無沙汰を極めていた。
こういう時に限って良いお話が思いつかないのは世の常らしい。
暫くして本格的に机との親交を深めるべきか悩み始めたその時、カバンの中にしまってあったスマートフォンから知らせが届いた。内容は成人式に行くかどうかという友人からの問い。
特別会いたい友人もいないから行かない、そう打ちかけたところでふとある旧友の顔が頭に浮かんだ。
彼とは中学卒業以来一回も連絡を取り合っていない。卒業時に連絡先は貰ったが勇気が出ず、この体たらく。
彼もまだお話を書き続けているのだろうか。そんな疑問を背に思うように進んでくれない時計の針を睨みつけた。
「時計の針」
2/7/2024, 8:54:41 AM