「恋のページをめくるたび」
春の風が吹き、桜の花びらが舞い散る4月。大学生の涼介は、新しいキャンパス生活に少しの緊張と期待を抱いていた。彼はふと文房具店に立ち寄り、気に入ったカレンダーを購入する。それは1日ごとに1ページずつめくるタイプのシンプルな日めくりカレンダーだった。
「よし、このカレンダーを使って、毎日を大切に過ごそう。」
彼は、カレンダーを机に置き、その日の予定や目標を書き込みながら日々を過ごし始める。しかし、新しい環境に馴染むのは思ったよりも難しかった。授業やサークル活動に追われ、気づけば夜遅くまで課題に追われる日々。カレンダーをめくるのもただの習慣になり、時折、数日分のページをまとめて破ることも増えた。
そんなある日、彼の視線がカレンダーに書かれたメモに留まった。
「4月10日 図書館に行く。午後1時」
その日は偶然にも、彼がいつもとは違う時間に図書館を訪れた日だった。静かな図書館の中で、本棚を探していると、隣にいた女性が彼の目に留まる。彼女は同じ本を手に取ろうとしていた。
「あ、すみません、どうぞ先に。」涼介が譲ると、彼女は軽く笑って、「いえ、どうぞ。私、実は別の本を探していたので。」と答えた。
彼女の名前は美咲。偶然にも、同じ講義を受けている学生だった。その日から涼介と美咲は少しずつ会話を交わすようになり、図書館で顔を合わせるたびに自然と仲良くなっていった。やがて、彼女は涼介の心に特別な存在として刻まれていった。
日めくりカレンダーに、美咲との約束が増えていく。映画を観に行ったり、カフェで話したり、そして一緒に課題に取り組んだり。彼のカレンダーはただのスケジュールではなく、思い出を記す記念のようになっていった。
ある日、涼介はカレンダーの未来のページを何気なくめくり、次の月を確認していた。その時、美咲の誕生日が書かれたページが目に入った。「5月27日 美咲 誕生日」。美咲が何気なく話していたその日を彼はすでにカレンダーに記していたのだ。
「誕生日には何か特別なことをしよう」と、涼介は計画を立てる。小さなプレゼントと一緒に、彼女を驚かせるサプライズを考えた。そしてその日がやって来る。
カレンダーの日付が「5月27日」となり、彼は少し緊張しながら、美咲と待ち合わせたカフェに向かう。プレゼントを手に、彼は「今日が大切な日だ」と心の中で自分を落ち着かせた。
「美咲、今日は君のためにこれを準備したんだ。」
彼がプレゼントを手渡すと、美咲は驚き、少し涙ぐみながら、「涼介、ありがとう。こんなことまで覚えていてくれるなんて…」と喜んでくれた。
その瞬間、涼介は気づいた。カレンダーは単なる時間を刻む道具ではなく、彼の心の中に恋が育まれてきた軌跡を残していたのだ。カレンダーのページをめくるたび、彼と美咲の距離は少しずつ縮まり、未来が形作られていたのだ。
そして、カレンダーを眺めながら、彼は心の中で誓う。「これからも、このカレンダーと一緒に、君との時間を大切にしよう」と。
9/11/2024, 10:08:18 PM