浜崎秀

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君に初めて会ったのも丁度今日のような冷たいの吹く頃だった。
大学への通り道、大きな公園。葉はすっかり黄色に染まり、ベンチにも地面にも落ち葉が溢れていた。僕にとっては色が変わっただけでいつも通りの景色。その中に君がいた。
何やら興味深げに木々を見つめている。写真を撮るわけでも落ち葉を集めるでもなく、ただ観察している。
どうしてそんなことしたのかはわからない。純粋に興味があったのかもしれないし、もしかしたらただの下心だったかもしれない。僕は君に話しかけた。
「あの」
「シッ」
君は静かに静止すると、木の上の方をゆっくり指差した。
茶色い木の枝の上、少し薄い色をした何かが動いている。
リスだ。実物を見たのは初めてだった。せっせと動き回り、周囲を観察している。
ちらっと隣を盗み見ると、彼女は目を輝かせ、時折「わあ」とか「ええ」とか独り言を言ってる。何とも不思議なことだが、あの秋の日の君は世界中のどんな人間よりも魅力的に思えた。

あの日から50年が過ぎた。秋になると毎年2人で例の公園まで散歩に来る。
「リスいるかな?」
「いるといいな」
この言葉も今ではお決まりの挨拶みたいなものだ。

あの年のあの秋の日。それ以来ここでリスを見たことはない。
人生でたった一度見たあの日、リスは運命の人を連れてきてくれた。
もう一度ここで会えたら、「ありがとう」ってそう伝えたい。

『秋』

9/21/2022, 1:24:52 PM