朝だろうが昼だろうが、彼はカーテンを開くことはなかった。
不健康だよ、と言うと「テメェにゃ関係ねえだろ」と答える。口の悪い彼はだが、腕の良い職人でもあったから、私もあまり口うるさくはしないことにしていた。彼が頑なにカーテンを開けない理由を、私は知っていたからだ。
数年前、彼の一人息子は彼を置いて逝ってしまった。
飛行船の事故だった。
病気がちで夢見がちだった彼の息子は、大空を舞う鳥に憧れ、病を押して研究に没頭した。そしてある日の朝家を飛び出し、自作の飛行船に乗って空へと舞い上がった。――彼の一人息子が鳥になれたのは、ほんの数時間だった。
あの日以来、彼は窓もカーテンも開けない。
空を見ると、鳥を見ると思い出すからだろう。
私は彼がいつか自分の手で、カーテンを開ける日が来ると信じている。
END
「空恋」
7/6/2025, 10:58:56 PM