10年くらい前だろうか。私が幼稚園に通っている頃だった。私は踊ることがとても好きだった。
好きといっても、ダンス教室に通うなど、そんな専門的なことはしていない。私の踊りははっきり言って下手だった。顔は無表情、バランスはよく崩すし、何を意識して何を考えて踊っているのか分からない。あとから父の撮ったビデオを見返してみて思ったけれど、その様はまるで空気のない操り人形のようだった。
でも当時、私から見えている世界は違った。幼い頃アイドル私はアイドルが大好きだった。ステージで全身にライトを浴び、目は常に宝石のようにキラキラ輝き、可愛く整えた髪と衣装についたフリルがふわっとする度、心が踊った。テレビ越しでも生で見ても、現実にいるのかいないのかわからないくらいアイドルも自分もふわふわしているその感じがとにかくとても好きだった。
だから私もアイドルになりきって踊っていた。目の前を大きなステージだと思って、自分はその真ん中に立っている。ペンライトが視界の端から端まで私の大好きなピンクで埋め尽くされ、私がくるりと一回転するだけで髪が勢いに任せてふわっ
と動き、スカートはフリルと一緒にくるくると膨れ上がる。とにかくステージの上でふわふわしていて、観客席のファンをみんな非現実的空間に連れ込む。そんな想像をしながら好きな曲をかけてうろ覚えなダンスを踊り、下手なダンスを家族の前で披露していた。
だが幼い頃の私でも、部屋で1人で無表情で踊っている私を想像したら恥ずかしくてダンスなんて絶対にやらなかっただろう。実際、たまにそんなことを考えてしまい、恥ずかしくてたまらなくなった時が何度もある。
それでもアイドルを見ると何故かもう一度踊りたくなった。そして踊り始めると、私から見えている世界はステージの上だった。全てが夢の中のような感覚だった。ふわふわしていた。幼い頃の私は、想像だけで自分を違う世界に連れ込むことができたのだ。
現在私は高校生だが、今、幼い頃のようにステージやペンライトを想像して自分がアイドルになりきって踊る、なんて絶対にそんなことはできない。
得意だった想像力を働かせてもステージが見えるのは一瞬、すぐに散らかった部屋の中へと意識が戻り、現実に引き戻される。部屋でひとり、自分の容姿には似合わないアイドルのダンスを踊っているなどと考えると恥ずかしすぎて、足をばたばたして気を逸らさないと心が変に焦りだしてどうにかなってしまう。
でも、もしも、幼い頃の私に会えるとして。
幼い頃の私が「お姉ちゃん、アイドルごっこしよう!一緒に踊ろう?」
そう言ってくれたら、私はこの恥を捨てて幼い頃の私と思いっきりアイドルになるだろう。根拠はないけど。
でもきっと、幼い頃の無垢な私は、高校生の私を自分の想像の世界へ連れて行ってくれるだろう。そこにはきっと、裏も表もない。恥なんて最初から存在していないのだろう。
10/4/2024, 1:37:30 PM