傾月

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おかしいな。確かベッドで寝ていたはず。いや、リビングのソファーで寝てしまったんだっけ…。どちらにせよ、自宅にいたはずだ。

ここは…どこだ?

暗くて何も見えないが 、自宅ではない、何故かそう感じる。目が覚めてからどれくらい時間が過ぎたのだろうか、いつまで経っても思うように動かない体に困惑と焦りが生じる。一体いつまでこんな状態が続くのか…。

不意に、体が軽くなり何かを通り抜けるような感覚に包まれた。次の瞬間、辺りが突然明るくなりその眩しさに思わず目を閉じる。
しばらくして少しずつ目を開いてみると、そこは見知らぬ部屋だった。辺りを見回すと、白い壁とたくさんの椅子。そしてその向こうに一段と明るく照らされている所があることに気付く。
たくさんの花とその花々に囲まれた1枚の写真。その写真にはぎこちない笑顔を浮かべた…オレ…。

ようやく合点がいった。そうか、オレは死んだのか。

・・・・・

Vちゃん、オレあんまり良い客じゃなかったね、ゴメン。カッコつけてないで、もう1杯くらい付き合えば良かったな。

Q、一緒に仕事してた頃が懐かしいよ。いつも駆け足なオレをそっとフォローしてくれて、本当に仕事が出来る奴っていうのはお前みたいな奴のことを言うんだよ。

L、奥さん大事にしろよ。次の遠出はお前がこっちに来てからな。でもまだ来るなよ。オレはいつまでも気長に待っててやるから、色々全うしてから来い。

さて…と。未練たらしいのは好きじゃないから、オレはもう行く。みんな、どうか元気で。


―――続・X氏告別式にて


                 #7【目が覚めると】

7/10/2023, 4:51:48 PM