『遠く…』
子供の頃、死ぬなんてことは別世界のことだった。
物語のなか。テレビのなか。ゲームのなか。
一線をひいて世界を分けている。その線を乗り越えてくることのない非現実。
年を重ね、青年期、死は非現実のまま憧れとなった。醜く穢く息苦しいこの現し世から自分を救ってくれる非現実。誰の身にも約束された救い。
それが、死が遠い時代の夢想だったと、だんだん気づいていく。
高齢の親戚、憧れた有名人、そして愈々家族。
遠くにあったはずのものが、己れに指を伸ばしている。
遠きにありて思うものだったのに。
友人の葬儀に参列しながら、涙をぬぐいながら。
己れの肩に、とん、と軽く手がかかるのを感じた。
その感触はすぐに消えた。振り返るまでもなく、知っている。
いずれ私の番が来る。幼いとき、若いとき、ずっと遠くにあった約束の地。
いずれ遠き約束の地は私を喚ぶ。
憧れではなく、幻ではなく、救いではなく。
2/8/2025, 11:27:45 AM