「もしも君が」
スプーンで珈琲をかき混ぜながら、彼は言った。
「今と違う姿をしていたら、僕達は出会わなかったかもしれないね」
ピンクのメッシュを入れた私の髪に、彼の視線が注がれる。私は彼の鼻先についたピアスを見つめながら、私もそうかも、と答えた。
たまたまライブハウスのラウンジで、たまたま同じドリンクを注文した。そんな出会い。
目が合って「それ、かっこいいね」と同時に呟いた。
メッシュも服も、アクセサリーもタトゥーも、今のところ変えるつもりは無い。
彼もピアスはずっとやめないし、変なフレームの眼鏡はこれからもどんどん増やすつもりだと言っていた。
「でも、もし」
珈琲にブランデーを数滴落としながら、彼は続ける。
「君がその姿を全く違うものに変えちゃっても、今のまま君を好きでいる自信はあるよ」
「――」
実は少し、今追いかけてるバンドに飽きている。
最近一人でいる時に聞いてる曲は、しっとりした女性ボーカリストの曲だ。シンプルなワンピースで歌う彼女のコンサートに、ちょっと行ってみたいと思っている。彼を誘ってみたら、どんな反応をするだろう。
「私もそうかも」
さっきと同じ答えをすると、彼はピアスのついた鼻先にちょっと皺を寄せて笑った。
END
「もしも君が」
6/14/2025, 10:43:00 PM