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『Kiss』

キスに味があるとはよく聞くけれど、
そのどれもが今一つ要領を得ない不安定な答えばかり。
甘いだの苦いだのならまだしも青春の味ってなんだ。
そんな幻想的で甘美な夢を見るような年頃でも無く、
ただ私は実在的な本物の味が知りたい。

そう私は熱弁すると、君は悩むように空を見上げていたが、
意を決したように煙草を灰皿に押し付け、
虚空へ紫煙を吐き出した。
手招きされるままに君の元へ歩み寄る。
辺りに漂う煙草の煙に思わず顔を顰めた。
手を伸ばせば触れられる距離まで近付いたその時、
ぐいと腕を引かれて君の元へと引き寄せられると、
そのまま唇を奪われる。

初めてのキスは苦い煙草の香りと、
フレーバーの甘ったるいバニラの味が混ざった何とも言い難く、
少なくとも青春の味とやらからは程遠い程にありふれた味がした。
どれくらいそうしていたのかまるで覚えていないが、
どちらとも無く唇を放す。

どうだった? と、何も無かったような顔で言う君に
何だか無性に腹が立って、胸ポケットに入っていた煙草を奪い取る。
こいつと同じだよ、私は舌を出して君にそう告げた。

2/5/2024, 3:14:59 AM