ねこいし

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『同情』

・柚穂(ゆずほ)
・秋人(あきと)


*長めです。僕の書く文はいつも長くなってしまいます。それが最近の悩みです……。
少し長めの物語が読みたい人向け、ということにさせてください。


『可哀想な奴』と、ぼくは若干同情した。
裏表がなくて、周りの奴らに良い顔をして、酷いことをされても自分に非があったんだと思い込んで。そんな『良い奴』過ぎるから、ああやってウザがられてしまうんだ。
ぼくがどれだけ「お前はお人好しすぎる。良い奴はどれだけ良い奴でも、ずる賢い奴には勝てない」と言おうが、柚穂は困ったような顔をするばかりだった。彼は皆の幸せが自分の幸せでもあるような、そんな聖人みたいな性格をしている。だから悪い噂が多くあるぼくにも屈託のない笑みを向けて、仲良くなろうとしてくるのだ。

小学生から高校二年生になった今まで、ぼくには友人らしい友人はいなかった。柚穂以外、ぼくに話しかけてくる人は誰もいない。それなのに他の生徒といえば、こそこそと噂話ばかりするような連中だ。

「親が怖いヤクザらしいぜ。やべ〜」
「えー有名だよねその話。マジなの?」
「マジマジ。本人もあんなんだしさぁ、うわこっち見た」
「厨二病だろあいつ。孤独がカッコイイとか思っちゃってるタイプ」

教室、廊下、どこにいてもくだらない会話が耳に入る。ぼくは居心地が悪くなり、教室の外に出た。

「え、今睨まれたんだけど!」
「やば。今の話聞こえてた説無い?」

中には同情の目を向けてくる者もいた。目を向けてくるだけで、ぼくに話しかけようとはしてこない。同情するだけならば、ああやってわざと大きな声で噂をしていた奴らと大差ない。どちらにしろ、異端者を見る目に変わりはないのだから。

* * *

昼休憩の時間、おれは教室で一人で弁当を食べていた。前はクラスメイトの皆と談笑しながら昼食をとっていたのだが、今は誰もおれと話そうともしなかった。話しかけても、あまり相手にされない。

「良い子過ぎてうざい」と言われた。だからおれが皆を不快にさせてしまったのだと思う。でも、どうしていいか分からなかった。おれにとっては普通に毎日を過ごしていただけで、どう直せば皆がまたおれと笑いあってくれるのか、考えても結論は出なかった。
そういえば、秋人にも似たようなことを言われたことがある。「お前はお人好しすぎる」と。
おれが今の状況になってしまって、クラスメイトの何人かから同情の目を向けられることもあった。でも、おれと一緒に弁当は食べてくれない。完全に、見ているだけだ。

「みんなと一緒に食べてるみたいだから」と最近、母親は弁当のサイズを前のものよりも一回り大きいものにしてくれた。それが余計におれの心を悲しみで蝕んでいった。一人だと食べきれない、しかし残してしまったら心配をかけてしまう。何とか食べ切ろうとはするが、徐々に箸の動きは遅くなっていった。

突如、クラスメイトがざわつきだす。おれは不思議に思って弁当から目を上げると、目の前には秋人がいた。

「うわっびっくりした! 秋人、あの、どうしたんだ? 他のクラス入っちゃだめなんだぞ?」
「同情するだけの奴らと一緒になりたくないだけだ。別に柚穂の為じゃない」

ふん、と秋人は鼻を鳴らし、誰も使っていない椅子を持ってきておれの机のそばに座った。おれの弁当のおかずを手でつまんで食べる秋人を見つめていると、優しい彼は眉を寄せて素っ気なく言った。

「ひとり飯は性にあわないんだろ」

その言葉はおれの心をぽっと温めてくれて、思わず笑いが零れた。
秋人には良くない噂が多くあって、そのせいで人に誤解されることがよくある。でもおれは、ちゃんと知っている。秋人は噂通りの人間ではないことを。
おれが笑うと、秋人は視線を窓の方へとやってしまった。

「ありがとう秋人……えへへ、やっぱ良い奴だな」
「お前の為じゃなくてぼくの為にしてるんだからな」
「そっか……でも、おれ嬉しいよ。秋人は怖くて悪い奴じゃないって、誤解が解けてくれたらいいんだけどなぁ」
「……どうでもいい。お前が誤解してないなら、それでいい」

2/20/2024, 1:22:03 PM