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 あの子が死んだ。
 学生時代のいじめで発症した鬱病による、自殺だった。

 葬式の日、あの子はきれいにお化粧をして、絹の白袴を着たまま棺の中で横たわっていた。
 私はおいおいと泣いた。
 あーあ、もしも別なときに死んでしまったら、おたがい泣かないで送り出そうねって約束したのに。笑っていてほしいからって、言ってたのに。

 だけど、いくら理性で止めようとしても、大雨のあとの濁流のように涙は溢れつづけた。
 以前のように冗談を言い合えないのが悲しくて。
 あの子の痛みに、苦しみに気づけなかったことが悔しくて。

 だけど、ああ、とも思う。
 あの子はもうこれ以上苦しまなくてもいいんだ。それはきっとあの子にとって最善だったのかもしれない。あの子に唯一残された救いだっあのかもしれない。

 いろんな感情がドッと押し寄せて、私を支配しようとする。ぐちゃぐちゃに掻き乱そうと襲いかかる。

 あの子は死後の世界を信じていた。よい行いをすればすてきななにかが未来で待っているし、死んだあともきっと楽しくいられると熱弁していたものだ。
 私は信じなかったけど、けれど、もし本当にそんなものがあるのなら。
 そしたら、また、会えたりするのかな。

 涙はいまだ頬を伝って、足元にしみをつくる。
 それらを拭い、手近な位置においていた三本の白菊を掬い上げ、あの子に手向けた。

 寂しくなるけどさようなら。
 あの世でまた会いましょうね。


▶また会いましょう #39

11/13/2023, 11:12:02 AM