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どうすれば抜け出せる?
攻撃のない世界から。
防波堤のように立ちはだかるあなた。
必ず帰ってくるよと言って、去っていったあなた。挙げたサヨナラの手の、下ろし方がわからなかったあの日。
ポートアイランドの空港から、一機の戦闘機が飛び立った。アフターバーナーは火を噴き、コックピットの機器が、高度の上昇を告げていた。
パイロットは、操縦桿を握り、ブレーキの効きを確かめるように、ジェットエンジンの推力を確かめた。
パイロットの名前は、エマ・スミス飛行軍曹。
マッハ1.6で飛ぶ、F2A-3戦闘機、通称テンバーは、対戦闘中の帝国機、暁月にも勝るとも劣らぬ機体である。
実際のところ、撃墜数で数を押されようとしていた公国軍が、最近この新型機の導入によって、帝国機を押し返しているのは、目に見えてわかった。
敵機が30マイル先にレーダーに映し出された。
1万フィート上空を、通り過ぎようとしている、敵戦闘機は、恐らく暁月であろう。
それは、愛しているあの人の、胸の内に飛び込んでいくような、自殺行為であった。
エマは結局、あの人に追いつきたかったのだ。
そう、去っていったあの人も、パイロットだった。空の果てに消えたあの人を、自身の翼で追いかけたかった、そんな曇り空から、晴れ間の差していたあの日。

11/21/2023, 10:27:10 AM