『あじさい』
梅雨の時期って鬱陶しい。
雨はジトジト降るし洗濯物は乾きにくいし、湿度が高い。
私は暑いのも苦手だけれど、特に湿度に弱い。
すぐに体調を崩す。
だけど、嬉しいことが一つだけある。
それはあじさいが咲くことだ。
むかしは、花になんてあまり興味がなかった。
母は花の好きな人で、いろいろ育てていた。
母の好きな花は、松葉ボタン、松葉菊、そしてあじさいだ。
特に額あじさいが大好きだった。
私は普通のあじさいの方がずっときれいだと思っていた。
額あじさいって、ぱっとしなくて、きれいだとは思えなかった。
母と私の関係は、ちょっと普通とは違っていた。
愛された記憶がないのだ。
でも、年月が経ち、母の呪縛からやっと開放され私らしく生きていいんだ、と思えるようになった。
何年か前に引っ越したが、そこには小さな庭がついていた。垣根として木が植えられているが、私が花を育てるのが苦手で出来ないので、うちだけ何も花はなかった、と思っていたら、最初の年、梅雨の時期になんと額あじさいが咲いたのだった。
そういえば、何かわからないが最初から、葉っぱもない枝だけの五十センチくらいの高さの植木が一本あったっけ。越してきたのが真冬だったので、全然知らなかった。
額あじさいが初めて咲いた時は、まだ母の呪縛に囚われていた。
三年ほどして、やっと呪縛から開放され、その年の梅雨の時期に、雨が何日か降り続いたあと、買い物に行こうと外に出ると、額あじさいが咲いていた。
それは、よく見ると紫のきれいな花だった。心の中で(お母さん、お母さんの好きな紫色の額あじさいが今年も咲いたよ、とてもきれいだよ)と母に話し掛けた。
雨の中、雨粒が花びらや葉に乗っていて、とても素敵だった。
あじさいは、みんなが嫌がる梅雨にきれいに咲く花だ。鬱陶しい、ジメジメする、大嫌いな梅雨になると美しく咲く。
不思議な花だ。梅雨はみんな嫌がるのに、雨の中でもあじさいを見に出かける。そして、雨の中咲き誇る美しいあじさいに魅せられる。
今年も、うちの1本だけの額あじさいがきれいに咲いた。庭がぱっと華やいで見えるから不思議だ。
6/13/2023, 12:09:22 PM