秋の涼し気な風に長い髪をなびかせている、サーレの長い耳が、果実の落ちる音を聞いている。
サーレはアルバ公爵家に客人として招かれているエルフの魔術師である。
エリーゼは公爵家の使用人で、魔術の才能があると言われ、先月から、彼に師事している少女だ。
エリーゼはたわわに実った果実をもいでいる、彼のローブを纏った体を見つめた。
小さな果実が、パラパラと落ちてくる。
それを、スカートを広げて受け止める。
旬の果実は、市場に出荷されるのは、もちろんのこと、残った形の悪いものは、ジャムにでもして、出荷箱に添えようとエリーゼは思っている。
そんな秋。
サーレは、公爵家に帰ってから、自室でココアを入れた。
一杯にはマシュマロを、もう一杯はミルクを多めに。
最近ではエリーゼも、魔術の使い方を覚えてきて、例えば、火を起こすには、赤い炎を心に思い描くところから始めるのだ。という、なかば半信半疑であった、教えから一歩踏みこんだところにあるといえた。
「先生、苦しい時って、どうすればいいんでしょう」
「苦しい時の処方は、いくつかある、カモミール、ラベンダー、それから、タイム。全て、オイルに抽出しても効くし……それから……」
「ラベンダーオイルをタオルに巻くと風邪に効く」
「そう、その通り! いい弟子を持って僕はとても嬉しいよ」
9/26/2023, 10:18:47 AM