【病室】
もぬけの空になった病室を、てきぱきと片付けていく。塵を除き、人の手の触れやすいドアやベッドサイドテーブルの表面を除菌し、床を清掃。果たしてここに入院していた人がどうなったのかは、クリーニング屋に過ぎない僕には知る権利がない。
僕にできることはただ、次にここを使う人が少しでも気持ちよく過ごすことのできるように、丁寧に繊細に掃除をすることだけだ。
隅々まで清掃を終えて、最後に空気を入れ替えるために病室の窓を開け放った。鮮やかな新緑が目に眩しい。吹き込んできたさわやかな風が、優しいベージュの色合いのカーテンをそよそよ揺らした。
僕には患者さんのことはわからない。だから勝手に想像する。きっと今までこの場所を使っていた人は、笑って家族の元へと帰っていったのだと。そうして勝手に祈るのだ。どうか次にここを使う人の道行きにも、溢れんばかりの幸いがありますようにと。
神様。どうか次のお客さまにも祝福を。胸の前で小さく十字を切って、僕は次の病室へと向かうために目の前の窓をぱたんと閉める。真っ白い清潔な病室は、次の患者さんを受け入れるために粛然とそこに佇んでいた。
8/2/2023, 9:53:30 PM