楠征樹

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《溢れる気持ち》#10 2026/02/06

 その人の何かがぼんやりと見える、なんて話を聞いたことがある。例えば、寿命までの日数が頭の辺りに浮かぶ、とか。
 そんな、SFめいたものとは、一切縁がない。と、思っていたのだけど。
 同級生の、桜子さん。背が低くて、眼鏡をが似合うおっとりさん。ある日、同じクラスの男の子に話しかけられいたのを見た。ちょっとノート写させて、みたいな他愛もないこと。
 その時、桜子さんの頭の上に、何かがふわっと浮かんだ。
『しゃぼん玉?』
 小さなそれは、黄色の光を残して、パチっと爆ぜた。教室を見渡す。誰も、しゃぼん玉を吹いてなんかいない。当たり前だ。幼稚園ならまだしも、ここは高校で。
 でも、私の見間違えなんかじゃなかったんだ。数学の授業で先生に指名された時は、どんより青くて小さな玉がポツポツと。選択科目の音楽では、名前と同じ桜色が浮かんでいた。
 ああ、あれは彼女の感情が顕れたものだったんだ。入学して以来、あまり接点がなかった桜子さんのことが、そのことに気付いてから急に親しげに感じられて。
 そんなある日、私の視線に気付いたのか、桜子さんと不意に目があってしまって。
「あ…えっとね…」
 悪いことしたかな…なんて言おう…ドギマギしている間に、桜子さんは真っ赤になった顔を机に伏せてしまって。
 その、彼女の上に、鮮やかな赤色のしゃぼん玉が浮かび上がった。いつものように現れたそれは、膨れ続けて、いつも間にか教室一杯を覆うくらいになって。
 その、しゃぼん玉の中に入り込んでしまった私には、確かに彼女の声が聞こえたんだ。
『目、合っちゃった…恥ずかしい…でも…好き、なの』

2/6/2026, 1:56:18 AM