ドルニエ

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 自転車に乗って、どこまで行こう?
 歩きでは遠い、町の反対側まで?それとも河のむこうまで?
 自転車に乗れるようになったとき、世界が一気に広がった気がした。いや、実際広がったのだ。
 家族に頼めば車で色々なところに連れて行ってくれたけど、それは自分で行くわけじゃない。自分で運転するのじゃない。寄り道も好きにできない。だから窮屈だった。
 だからたくさん練習した。たくさん転んでたくさん血を流した。すごく痛かった。
 けど、もうそんな思いをすることはあんまりない。
 車や電車には及ばなくても、自分で、遠くまで行けるようになったのだ。

 それが15年前。たくさん漕いだ。でも何度も転んだ。目茶苦茶痛い思いもした。
 でも分かった。山のむこうにはどうやっても行けない。そこまで頑張るのなら、不自由でも電車で充分だと学んだ。
 そして今日。納車の日だ。
 10万キロも走った、ちょっとがたのきている軽だ。
 でも、いずれ。金さえあれば、もっといい車に乗れるだろう。だから今はこれで充分だ。――話がそれたな。
 そういうわけで、ただとはいかないが、自分で、山のむこう、自転車ではとても行けない遠くの街まで、寄り道もなんでも勝手にできる。雨に降られても濡れることもない。雪が降ってもそこまで困らない。

 でも、ちょっと淋しいかな。自分の力で漕ぐって結構楽しいんだよ。
 だから。
 また、きっと乗るからな。何代目かの俺の自転車。

8/14/2023, 12:06:57 PM