『世界に一つだけ』
父と母との掛け合わせで姉が生まれて私も生まれた。世界にひとりだけの姉とは随分と長い間仲が悪かったけれど、大人になって家を離れてようやくいい距離感になり、近況報告も兼ねてのお茶会を定期的にするまでになった。
「わたし、がんだって」
青天の霹靂に打たれる私をよそにケーキと紅茶を味わう姉は平然としている。
「お、お父さんたちには?」
「まだ。でも、早めにちゃんと言わなきゃね」
私の分のケーキと紅茶にはいまだに手を出せない。その様子を見た姉からもらっちゃうよと言われてようやく口にしたけれど、いつもおいしいケーキと紅茶はいつものようにはおいしく感じられなかった。
「最近よくあんたとケンカばっかしてたこと思い出すよ。あんたなんかいなくなればいいのにっていつも思ってた。たぶんあんたも同じこと考えてたと思うけど」
小さい頃はお互いを嫌いあっていて、姉の言うとおりにことあるごとにケンカをしていた。そしてこれも姉の言う通りに、いなくなればいいのに、と何度思ったかわからない。
「それでさ、思っちゃった。あの頃思ってたことが回り回って私になっちゃったのかなって」
平然と笑って話しているように見える姉だったけれど、あんまりうまく笑えていないように見えてきた。手が止まって減らないケーキに姉がフォークを伸ばしてきて削っていく。
「治療か始まったら、ケーキも紅茶もしばらく無理かもね」
言って私のケーキを口に運んだ姉は、いつもおいしいケーキをおいしく感じてはいないのかもしれなかった。
9/10/2024, 5:43:10 AM