無音

Open App

【114,お題:キャンドル】

コンコン、と自室の扉の鳴る音、はーいと間延びした声で答える
今の時刻は午後0時を過ぎているというのに、一体何の用だろうか?

「......」

「ルーチェ?どうしたの、先に寝てていいの...に...」

言葉は最後まで言いきれず、しゅんと急速に萎んで消えた

目の前には、顔を涙でべちゃべちゃにした子供
ぬいぐるみを持った左手が、力なく垂れている

「あー...もしかして寝れなかったり?」

「...!...コクコク(首を振る)」

「そっかぁ~」

どうやら怖い夢を見てしまい目が覚めた、とのことで
きっとこのまま戻しても眠れないだろうし、どうしたものかと思考を巡らす

膝の上に乗っけると、たちまち心地良さそうに船を漕ぎ出す
だが、怖い夢を見るかもという恐怖があるのか、眠らないように頬をぺちぺちと叩いている

「あ、そうだ」

ちょっと待っててね、と膝から下ろす、一瞬名残惜しそうな顔が見えてちょっと罪悪感
立ち上がり部屋の端から持ってきたのは、いつかの使い残りのアロマキャンドルだ

不思議そうにキャンドルを眺めるルーチェに、これに火をつけるといい匂いがするんだよ~と軽く説明をしてあげる

確かアロマキャンドルの匂いは、リラックス効果もあったはず
不眠は身体に良くないだろうし、これでどうにかならないだろうか?

「火つけるね」

「...!...」

キャンドルに火を灯すと、溶けた蝋の部分からふわっとフローラルな香りが広がる
ふと隣を見ると、既にルーチェがうとうとしだしている頃だった

「寝ていいよ、悪い夢はこの火が全部燃やしてくれる」

「...」

アロマキャンドルの火を見つめながら、そのまま動かなくなる
どうやらもう寝てしまったようだ、眉間に寄ったシワを手で解してやると
随分とあどけない寝顔になった

「君の夢に幸福よあれ」

ぽそっと紡がれた言葉の真意は、その灯りだけが知っている

11/19/2023, 10:11:45 AM