Mey

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交際している彼にひとっ子ひとりいない真っ暗闇に連れて行かれた。
彼に手を繋がれて田んぼの畦道をどんどん歩いて行くけど、私は視力が悪いうえに夜盲症なのか、目に映るものは全て夜の暗闇で、その中をただ彼の手が引っ張る方向を頼りに歩き続けた。ハッキリ言って怖かったのに、彼は闇に感じないのか、高身長の長い脚で背の低い足の短い私を速足で歩かせてどんどん暗闇へ連れて行く。

彼は急に止まった。
絶え間なくちょろちょろと流れる水音がする。
そして、ほわんほわんと仄かな黄緑の蛍光色の灯が浮かび上がる。残光を残して飛び交う蛍。草むらに止まった蛍は至極ゆったりと光を灯したり消したりを繰り返す。

目が慣れればそれは光の洪水だった。
蛍を袋いっぱいに集めて一気に放出したかのように、蛍光色の光が視界いっぱいに満ち溢れていた。
水音は小川の流れだということも、蛍が光を灯したから理解した。
小川の両岸には蛍がほわんほわんと光を点し、川にまで光が映っていた。

「綺麗…すごい蛍の数…」
「うん…」

闇の隣には光がいた。それも闇を覆い尽くすほどの光が。
だけどこの蛍の群衆に出会うまで、この田んぼ一帯は何も見えず、不安や恐怖を煽る闇だった。


闇の隣には光。
闇の狭間で行き来する蛍が光を産む。

彼は私に光の群衆を見せた。
恐怖に慄く私を知らず、闇の中を突き進んで。

そして今、帰り道は暗闇の中。

彼は、光か闇か。
光と闇の狭間で、私は彼を愛し続けられるのか自問する。

そんな私は……光か、闇か、どちらに属すのだろう……




光と闇の狭間で

12/2/2024, 2:29:51 PM