「……おきて。ねぇ、おきてよ」
雪が少しずつ溶け始め、窓からふわりと春風が吹き込む昼下がり。ウトウトとうたた寝をしていた僕は、ぺちぺちと頬を叩かれる感覚に思わず目を覚ました。
「ん、おきた」
少し見開かれる淡い琥珀色の瞳。所々跳ね上がっている銀色の髪の毛。彼は驚いたように狼の耳をピンと立てた。……いつの間に。彼は僕の膝の上に座っていた。どこか温もりを感じたのはこの為だったのか。それに、なんだかお日様の香りがする。いつから座っていたんだ。彼の頭をそっと撫でると、ゆらりと尻尾を揺らした。
「君から来るなんて、珍しいね。……まさか、寝込みを襲おうとしてたの?」
「ちがう。なんでそうなるの。……ボク、がんばって作ったから、見てほしいの。こっち」
寝ぼけ頭にたくさんの疑問符が広がった。考えようとして、眉間に皺を寄せる。そんな僕のことを、彼は気にも留めずに手を引っ張って歩き出す。連れて行かれたのはキッチンだ。そして目の前には――小さな可愛らしいケーキがあった。周囲にはレシピ本と、散らかった調理器具。そして『たんじょび、おめでと』という拙い文字で書かれた紙が置かれていた。彼はケーキを指さしながら、僕を見上げた。
「ちょこ、みんと?が、すきなんでしょ。だから、ケーキ作った。本、見て……あとは、野生のかん。たんじょび、おめでと。これからも、ずっと一緒……いてくれる?」
いつも強がりな彼なのに、最後の言葉には若干の不安が滲んで見えた。僕はそんな不安を吹き飛ばすように、優しく笑いかけてぎゅっと抱きしめた。唐突だったからか、彼は硬直して耳も尻尾も真っ直ぐ立てた。僕は落ち着かせるように、穏やかに話しかけた。
「もちろんだよ。君のことが大好きだからね。……僕のために、ありがとう。すっごく嬉しいよ。これからも、ずっとずっと一緒だよ」
彼はびっくりしたように一度瞬きをし、唇を強く噛み締めた。だが、徐々に嬉しそうに頬を赤く染めていった。まるでりんごが熟していくかのように。尻尾が僕の腕をさらりと撫でる。その時の表情は、幸せで満ち溢れていた。
あの後、僕たちは二人並んで調理器具の後片付けをし、ケーキを半分こして頬張った。食べている最中、「今日こそは、ボクがお前をふわふわにする」と言っていたけれど……どうなる事やら。誕生日の昼下がり、暖かな日差しが僕たちふたりの笑顔を照らしていた。
〜(別題で失礼します)〜
3/7/2026, 3:24:55 AM