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みなさん、初めまして。私はビニール傘です。
私は恋人の梶さんと六畳一間の狭い部屋で同棲しています。
「いいなあ、ソロキャンプ。俺もやってみたいなあ。スキレットにマクライト、デルタナイフも欲しいなぁ…置く場所がないけど…」
パソコンのディスプレイを見つめて意味不明なことをブツブツ呟いているのが私の恋人の梶さんです。
さっきまで「今日のテーマは『相合傘』か…」なんて言って、珍しく真剣な表情で考えごとをしていたのに、今は『ゆうちゅうぶ』っていうインターネットのサイトを見るのに夢中みたいです。
なので本日のテーマは梶さんにかわって私が書いてみようと思います。
ですが、ビニール傘の私は今まで一度も文章を書いたことがないので、上手く書けるかどうかわかりません。ですから温かい目で見守って頂けると幸いです。

梶さんと出会う前の私は『こんびに』という物で溢れる雑然とした場所に監禁されていました。狭くて、息苦しくて、外の世界に逃げ出そうと何度も思いました。けれどビニール傘の私には歩くための足がありません。困りました…
そんなときに現れて、私をこんびにから助け出してくれたのが梶さんです。
こんびにに入ってきた梶さんは私のところまで一直線にやってくると、私の手を掴んで引っ張り上げ、私の体を固定していた傘立てという拘束器具から私を解放してくれました。
まるで、囚われの身になっているお姫様を助けにきてくれた王子様のようでした。その英雄的な行動に感銘を受けた私は、一瞬で梶さんのことが好きになりました。
きっと梶さんも、私の透き通るようなビニール製の肌に一目惚れして、助けてくれたのだと思います。両想いですね。

梶さんに連れられてこんびにの外に出ると、雨がサァサァと降っていました。
「…いきなり降ってくるんだもんなあ」
梶さんが憂鬱な顔で空を見上げて恨めしそうに言います。私を助け出してくれた大好きな恩人の梶さんに、そんな顔をしてほしくありません。
私はニコっと微笑んで梶さんに言いました。
「大丈夫ですよ、私が守ってあげますから」
「…………」
私と梶さんは相合傘をして家まで帰ることにしました。
「ちゃんとささないと濡れちゃいますよ」
「…………」
梶さんは恥ずかしがり屋な性格の人なので、私が話しかけても何も答えてくれません。
ですが、言葉はなくても、私の手をしっかりと握ってくれます。虚弱体質な私の体が傷つかないように、大事に丁寧に接してくれます。
「おっと危ない、ぶつけて傘を壊すとこだった。700円もしたんだから気をつけないと…」
…………とにかく。
不器用だけど優しい梶さんのことが大好きです。

本日のテーマ『相合傘』
梶さんの代筆をなんとか勤め上げることができました。
ところで明日の天気は雨でしょうか? 雨だったらいいなと思います。梶さんと相合傘で、お出かけできるから…
梶さんに聞いてみましょう。
「梶さん、明日の天気は雨ですか?」
「ふぁぁ…ねむ…いけど…寝る前に歯を磨いて、洗い物を片付けないと…ペットボトルのラベルも剥がさないといけないし、ああ面倒臭い…」
それどころではないようです。
困っている梶さんのお手伝いをしてあげたいところですが、ビニール傘の私には見守ることしかできません。
歯ブラシを咥えたままコップやお皿を洗っている梶さんをそっと応援してあげます。
「頑張ってください、梶さん。生活のお手伝いはできませんが、雨の日は私を頼ってくださいね」

6/19/2024, 4:30:43 PM