「記憶のランタン」
光にならないものがある。
たとえば、クロの重さだ。
わたしの膝で丸くなったクロの、
ずっしりと重い。生きている重さ。
それは光ではない。
音もない。色もない。
ただ熱だけだ。
クロの体温は消えた。
わたしは手のひらに記憶する。
その場所が痛む。ときどき、ちくりと。
それは小さなランタンの火。
闇を照らす光ではない。
火傷しそうな熱い熱。それだけを持つ。
真っ暗な部屋で抱きしめる。
そっと、その熱を。
誰にも見えない小さなランタン。
揺れるたびに聞こえる。
あの日のやさしい息づかい。
わたしたちは知っている。
その熱さえあれば、生きていける。
11/18/2025, 3:35:40 PM