・君だけのメロディ
サブカル系など、最近の中高生かハマっている曲がよくわかっていない。数年前はボカロなどを好んで聴いていたが、現在ではただ賑やかなだけ、急に始まって急に終わるような曲調が多く、心が離れてしまった。
RNAスプライシングを思い出す。RNAから不要な部分を取り除いて、タンパク質合成に必要な部分のみを繋ぎ合わせる現象。原核生物には見られず、真核生物特有の現象らしい。あれと一緒だ。
不特定多数だった彼女の耳から、機械でできた耳栓を取り上げる。サブカルのメロディを取り上げた。よく知らない音楽性だ。
まったく。限られた時間の中で、ほっとひと息つくところが見当たらない。これを中毒症状のように聴くから、頭が疲れるんだ。
僕は、そんなデジタル領域からノイズを取り除く作業をする。世に出たら、今まで必要だった領域が不要になるということを、コイツらの耳はまだ知らないでいる。
どうせ、ワイヤレスイヤホンのせいにする。
きっとそうだ。不出来な頭のせいにしない。
・I love…
隣のスマホ画面を見ると、カビゴンが映っていた。通勤電車のことである。
カビゴンとは、図体のでかいポケモンである。
食いしん坊、よく眠る、体長35mで、道をふさいだりする。そんな奴限定の育成ゲームをしていた。
操作者の指が、ラムネジュースを作っていた。もちろん、スマホ画面のなかだ。素材の概念はあるのだろうか。お金さえあれば簡単に作れるタイプの代物だろうか。
完成したラムネがおぼんに置かれる。パフェで使われてそうなガラス容器に爽やかなで青いラムネの液体が入っている。ストローを差し、ライムを差し。カビゴンに差し出した。
奴はおぼんを持ち上げ、飲むという概念を省略して、そのまま豪快に傾けた。おぼんが平たいスープ容器に見える。顔が見えない。
数秒後、おぼんには空になったグラスのみが置かれている。そして、腹ごしらえが済んだように、ゴロンと眠った。
操作者の性別は女性だった。そのまま眠ったことを確認すると、カビゴンを弾き、別アプリを起動して、TikTokだったり、Instagramだったりと忙しない指を動かしまくった。
ノンデリで仕方ないが、この女はカビゴンみたいな男が好きなんだろう。
6/14/2025, 9:44:44 AM