わたあめ

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「秋祭り」

暑い夏が過ぎ、涼しい風が吹き抜ける。空はどこまでも高く澄み渡っている。気持ちの良い季節の到来だ。
越冬のための渡りが目前に迫っている。束の間の穏やか時間が流れる。
毎年渡りの前には旅の安全を祈る祭りが催される。

祭りの始まりを告げる音楽が流れる。
ケイシャののびやか歌声が澄んだ秋の空をどこまでも響き渡る。その声をうけて他の群れも集まってくる。高原では別々に行動しているが、渡りの時にはいくつかの群れが集まり大きな大群をつくる。久しぶりにあう仲間たち、それぞれの群れに新しい仲間も増えている。ジグメたちと同じく今年産まれた子ども達だ。それぞれに興味深々で周りを見渡している。ジグメは新しい仲間に話しかけてみたくてうずうずしている。

長老達による祈祷が始まる。皆が無事に渡りを終えられる様に、旅の安全と天候の安定を空に祈りを捧げる。
ひとりずつ長老の前に進みでる。長老から空の加護をうける。
ミカキの番だ。翼の大きさに左右差があるミカキを長老はいつも気にかけてくれていた。他の者より長い時間をかけて祈りを捧げてくれているようだ。祈りが終わると長老はミカキに優しく囁いた。
「何があってもわしがお前を彼の地まで連れて行く。安心するがよい」

全員の祈祷が終わるとそれぞれの群れの踊り上手達が空へ舞い上がる。優雅に上品に。大胆に雄々しく。
オユンも空へ飛び立つ。オユンは群れ一番の踊り上手だ。艶やかな踊りを披露する。
リグジンはオユンに聞いたことがある。
「どうすれば、母さんの様に上手に踊る事ができるの?」
オユンは少し考えてから答えた。
「わからないけど、母さんは自分の大事なものの事を考えながら踊っているわ」
「母さんの大事なものって何?」
「もちろん家族よ。リグジンとジグメとミカキは特に大事」

踊り子達につられるように他のガンたちも踊りに加わる。大空を自由自在に踊り回る。沼地で翼を大きくはためかせ、勢いよく飛び立つもの。陸地でステップを踏むもの。皆、自由に思い思いに踊っている。
リグジンとジグメとミカキも夢中になって踊る。3羽の踊りを見てオユンは安堵する。
自由に踊れる事は渡りに適した飛翔力を、一日中踊り回れる事は渡りのための体力を手に入れた証しでもある。

太陽が西に傾くまで祭りは続く。太陽が沈むとそれぞれに寝床に帰っていく。次に会うのは旅立ちの時だ。それまで元気でと挨拶を交わしながら。
賑やかで愉快な祭りはガンたちを興奮させ、旅への心の準備をさせる。
壮大な祭りはそれだけ旅が過酷であることを物語っていた。

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お題:秋晴れ

10/19/2024, 7:00:15 AM