—海風の夜に—
大学の頃から付き合っている彼氏がいる。
シャイなところが可愛くて、人の悪口を決して言わない優しい恋人だ。
「話したいことがある」
そんな彼から、海が見えるベンチで切り出された。
学生時代は毎日会えていた彼とも、最近はあまり会えていない。お互い仕事が忙しい。
なんとなく、嫌な予感がした。
「どうしたの?」と私は訊いてみる。
「海外転勤が決まったんだ」
彼の声が夜の海に溶けていく。
冷たい潮風が私たちを吹きつける。
「そうなんだ、良かったじゃん。場所は決まったの?」
海外転勤ということは、彼の仕事ぶりが評価されたということだ。素直に喜ぶべきだけれど、そういう気分にはなれない。
「アメリカ」
「ふうん。すごいなぁ」
彼が遠くに行ってしまうような気がして、自然と顔が下を向く。
「菜月は? 仕事は順調?」
「私は……、ぼちぼちかな。良くも悪くもないって感じ」
「そうなんだ」
波の音が大きく響く。
彼の「あのさ」という声が沈黙を破った。
「うん」
「これからも、ずっと隣で、僕の話し相手になってくれないかな」
「ずっと……、隣で……」
彼の言葉が頭の中で回り続ける。
その言葉を理解できるまで、時間がかかってしまった。
それはシャイな彼なりのプロポーズだった。
「私もずっと一緒にいたい」
私たちは体を寄せて抱き合った。
彼の体温が、冷え切った体を温めてくれた。
お題:ずっと隣で
3/14/2026, 2:06:28 AM