koromo(全てフィクションです)

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不条理

「確かにこの世の中は不条理なことだらけだ。
けどね、それを割り切って考えられる人は本当の強さを持ってる。」

そうあなたが言ったから、私は割り切って考えるようになった。
「人間だから仕方ない」
人との据も失敗も、間違いも全部。
見えないように隠してたものが見えてしまったときもそう。
今まで見ないように努力した自分を褒めながら、「仕方ない」と割り切ってきた。

いつの間にかそれが普通になって、私は冷たい人だと思われるようになった。
それはどこかで事実だったのかもしれない。
けれど心が少し痛かった。

この世は言葉や感情で割り切れないものの方が多いから、そこに私が区切りをつければみんなが争わずにすむと思った。
「価値観のすれ違いはあって当然。人間だから。」
そうやって全て受け入れてきた。
ときには自分の意見を押し殺した。
争いごとは嫌だから。

「それじゃあ、君の意見はどこにあるの?」
あなたはいつも優しかった。
胸がドキッとした。
今まで見て見ぬふりをしていたのは、そっと押し殺してきた自分の意思だった。
仕方ないと言って割り切って捨てていたのは私の中身だったんだ。
一番捨てちゃいけないものだった。

「私は強くはなれないみたいだね。」

少し間を置いてあなたは言った。
「君は強い。もう見える世界が違うはずだよ。君は今まで人の価値観を尊重して、いろいろなものの見方を身につけてきた。それでも君の一番真ん中にあるのは君自身だ。君がそっと内にしまってきたものが静かに磨かれて、今一番光っているよ。」
あなたは私の心を指さした。

3/18/2024, 11:38:28 AM