Alan.Smithee☆彡

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『兄は一年後、柴犬になるらしい』



「一年後には、俺は柴犬になってる予定だから」

兄は味噌汁をすすりながら言った。

「えっ」

思わず箸が止まった。

兄は半年前に会社を辞めてから、ずっと家にいる。
最初のうちは転職サイトを見ていたはずなのに、最近では近所の犬ばかりを見ていた。

「田中さんちの小太郎、最近ちょっと丸くなったな」

とか言う。

「なんで柴犬なの」
「距離感がいいだろ」

兄は真顔だった。

「ベタベタしない。でも嫌われてもない。理想的だろ」

分かるような、分からないような。

その日から兄は、本格的に柴犬になろうとし始めた。
赤い首輪を買い、散歩を始め、電柱の匂いを嗅いだ。

「何してるの」
「情報収集」

完全に不審者だった。

最初は母も怒った。

「やめなさい!恥ずかしいでしょ!」

でも兄は平然としている。

「柴犬はちゃんと匂い確認するし」
「あなたは人間なの!」

すると兄は少し考えて、
「まだね」
と真顔で返した。

しかし人間、慣れるもんでさ。
一週間後には、母も、
「ポチ、ご飯よ」
「ワン」
という会話を普通にし始めた。

適応が早すぎる。
つい最近まで、キレていた人とは思えない。

兄は柴犬カフェにも通い始めた。
帰宅後はいつも、
「犬社会、厳しい……」
と呟いている。

今日もまた、兄は近所の柴犬を見に行っていた。
帰宅した兄は、なぜか少し傷ついた顔をしていた。

「どうしたの」
「……柴犬、思っていた以上に愛想ない」
「そっか」
「三十分見つめていたのに、完全に無視された」

兄は遠い目をした。

「犬社会、やっぱり厳しい…」

その時、窓の外で柴犬が「ワン」と鳴いた。

兄はしばらく黙り込んでいたが、やがて顔を上げた。
その表情は、どこか切ない。

「でもチワワならいける気がする」

全然懲りてなかった。



2026.5.14

5/14/2026, 1:48:56 AM