1/28「街へ」
ガタガタ、ゴトゴト。
馬車の荷台はひどく揺れる。だが歩くよりはずいぶん楽だ。
今日は兄貴と街へ買い出し。自分用に買うものはないが、週に一度の楽しみだ。
街は春祭りの頃だ。綺麗に着飾った娘たちに会える。暖かな陽気も相まって、うきうきと心が弾む。
ガタガタ、ゴトゴト。
荷馬車は揺れながら、俺たちを街へ運んで行く。
(所要時間:6分)
1/27「優しさ」
「かわいいね」
そう言ってウサギをなでる君も可愛い。
「うちでも飼いたいな」
穏やかな眼差しが僕を虜にする。
「それで、死んだら残さず食べてあげたい。でも骨は食べられないから、庭に埋めてお墓を作ってあげるの」
優しい君を、うっとりと僕は眺める。
僕も、君が死んだら残さず食べてあげるよ。
(所要時間:6分)
1/26「ミッドナイト」
寝静まることのない都市。空には巨大な月。その月を背景に、ビルの屋上、マントに包まれて立つ姿がひとつ。
「今宵の月は良い」
男が呟く。
「お前を葬るには実によき日だ」
「こっちの台詞だ」
別のビルの陰で、銀の剣を抜く女。
「決着をつけてやる」
剣を構え、月明かりに飛び出す。男はマントを広げ、ふわりと跳躍する。
二人はもつれ合いながら、真夜中の底に墜ちていく。
(所要時間:10分)
1/25「安心と不安」
ようやく見つけた。むすっとした顔で、窓枠に肘をついていじけている。
「また振られたんだって?」
「うるさいなぁ」
「恋多き乙女は大変だな」
恋多き乙女にやきもきする幼馴染みはもっと大変だけどな。
でもよかった。あいつはあんまり良くない噂を聞いてたから。
「でさ、それとは別に気になってる人がいるんだけど」
「えっ」
もしかして、「今、隣りにいる人」…とか?
どぎまぎしていると、
「今、隣りのクラスの牧村くん」
「………」
あいつは女好きで有名だぞ。大丈夫か?
俺の不安が解消される日は、来るのだろうか。
(所要時間:10分)
1/24「逆光」
「また寝てる」
カナミの声が降ってきた。顔に被せていた本がどけられる。
「ミカってほんと、どこででも寝るよね」
そんなことはない。初夏の河川敷は誰しも絶好の昼寝スポットだ。
眩しさに薄く目を開けると、カナミは肩越しに太陽を背負って私の顔を覗き込んでいた。
「起きた?」
「まだ」
「何言ってんの」
鈴を転がすような声でカナミは笑う。
ああ。眩しくて、君が見えない。こんなに近くにいるのに。
(所要時間:8分)
1/29/2024, 12:06:19 AM