シシー

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 はらり、はらり

 小さな春が零れ落ちる。机の上に積もったそれはとっくに色褪せていて、少し触れたら崩れてしまいそうだ。
ふっくらとしていた封筒をひっくり返すと後から後から出てきて床にまで零れてしまった。ようやく空になったかと思えば肝心の便箋はメモ用紙を半分に折っただけのが1枚だけ。それだけ。

 ―――迎えにいきます

 たったそれだけ、それだけだ。
もっと他にあったはずだ。近況とか、体調のこととか、愛の言葉だとか。筆不精にしてもここまでくるとあれこれ疑わしく思えてくる。

「…仕方のない人」

 今度は手紙の書き方を教えてあげなければ。
こんなのは手紙とは言わないの。ただ季節外れの春を贈っただけだもの。それはそれで嬉しいけれど、私が欲しいものはこれではない。


 ものではなく、言葉で、伝えてほしいの




            【題:手紙を開くと】

5/5/2025, 12:24:13 PM