池上さゆり

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 教室の隅っこ。みんながそれぞれ机を囲んで談笑している中、私たちはノートに絵を描いていた。可愛い女の子とかっこいい女の子の描きわけ方を模索したり、自分の好みがたくさん詰まった世界一の美男美女を生み出したりしていた。ノートの世界は無限に広がっていて、自分たちの描くイラストこそ至高だと想っていた。
 高校生になり、世にスマホが普及しだした頃。私たちもバイトの少ない給料の中からなんとか自分用に買った。そして、すぐにSNSを始めた。そこに自分たちの描いたイラストを載せて反応や感想をもらおうとした。
 だけど、自分たちがいかに井戸の中の蛙だったのかを思い知らされただけだった。いいねが数個しかつかず、フォロワー数も全く増えなかった。二人して私たちって下手くそなんだと思い知らされた。それでも、上手に描けた落書きを載せては満足していた。
 高校を卒業して、私たちは別々の大学に進学した。お互い、連絡を取ることもなくなった。SNSを見ては生存確認を時々していた。大学生になった私はいつの間にかイラストを描かなくなっていた。それでも、友達は毎日かのようにイラストを載せていた。それを見て、私は意味もなく苦しくなった。だから、SNSを消した。
 そして、大学を卒業した君は今。三万人を超えるフォロワーがいる絵師になっていた。いつの間にか、イラストレーターとして仕事もしているみたいで、プロフィールには仕事依頼の連絡先まで書かれていた。久々にSNSで連絡を取ろうと開いたタイミングで知った。
 その連絡先に私は匿名でメールを送った。
「金髪碧眼でセーラー服を着た女の子が、切なそうにうにしながらも笑って泣いているイラストを描いて欲しいです。予算はありません。掲示された金額でお支払いします」
 あの頃の私の好きを詰め込んだ女の子。今の君はどんなふうに描いてくれるのかな。

2/26/2024, 1:18:56 PM