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習作
⚠️caution
・あるゲームのCP小説です
・根√のネタバレを含みます
・名前表記あり(ゲーム内準拠)
・途中曲の歌詞記載あり(その時に流すと良い感じです)
・設定捏造あり
・お題≠タイトル(テーマ)
・推敲遅れる可能性があります
なんでも有りな方のみ
⸺2500字程度
(少し加筆済)


ゲーム内bgm : Mad Artist,Pt.1or2
(お好きな方でどうぞ、個人的には1です)



喪失感


  葉の揺れる音がする
  それはそれは鮮明に
  
  登り慣れたこの山の頂で手を合わせる
  ( ⸺⸺ますように。)
  そうしていると、風がほのかにそよぐ
  心地良い風で、まるで…


  「っ…根地先輩!ここにいたんですね!もう、探しましたよ…」

  「君だね」
  「へ…?」
  わっ…

  きょとんとした可愛いらしく、愛らしく、あどけない表情
  僕は君の頬を触る、そして、ふにふにと弄ぶ
  しぇんぱぃ…と愛しい囀りも聴こえるがお構いなしに

  「…可愛いね」


  ◇◇◇

  
  「さて、王子様のお迎えも来たようだし、そろそろ戻りましょうか!」

  「『ねぇ…王子様?』」

  彼女が一息つく、またかと呆れたような、それでも付き合いますよと一切の負の感情は感じられない。
  それに、愛しさを感じた瞬間
  
  彼女、いや彼は顔を上げる
  ぞくりと身震いする。
  

白を基調とし、エポレットなんかが付いたいかにもな王子服を身に纏う、そこには眉目秀麗な男性がいた。
きっと人々の誰もが憧れるだろう。

そんな彼が跪き、私に手を差し伸べている。
そして、その私には羨望、嫉妬、怨念様々な目を向けられている。
だとしても、私は彼の手を取るしか出来ない。

『お姫様、お手を』
『ええ』

彼は慈愛を含んだ温かな目で私を見る。
それに返すように微笑む。
彼が少し照れたような表情をする。
それも私だけが見ることができると思うと幸せで満たされる。

私はこれからどんな困難が立ちはだかろうと、誰になんと言われようと貴方といる未来を取るでしょう。


  ◇◇◇


  「わっ…」
  彼女が小石に足を取られ躓きそうになる。
  「おっと…お姫様?」
  正面から抱えるように支える。

  「す、すみません…」
  「いやいや、ここは山だからしょうがないさ。君も慣れたからとは言え気をつけるように!まあ、今は地面とにらめっこしながら歩いていたら日が暮れちゃうから少し急ごうか!!」

  「お手をどうぞ、…立花くん」
  「…は、はい!」

  彼女は演技ではない僕の格好つけたような言動に照れてしまうらしい。僕も同じくらい恥ずかしいのに、その表情を見るだけであぁ、してよかったなんて思えてしまうのだから困ったものだ。


  ◇◇◇
 
  もう少しで校舎に着く。

  びゅーっと音がして、木から落ちた花弁たちが舞った。
  目の前の彼女を取り囲むように、けれど、自然の様相なはずなのに、ぞんざいではない。
  そして、彼女は僕を見つめていた。
  その光景は舞台の演出のようにも思えた。
  

  「「綺麗だ」」

  二つの声が同時に同じ言葉を発した。
  
  「綺麗だよねえ…桜」
  「はい、それはもう綺麗に根地先輩を際立たせていて、根地先輩って自然ですら演出にしてしまうのかと思いました。」

  おそらく彼女も僕と同じように見えたのだろう。
  自然とは恐ろしい。

  「先輩…卒業しちゃうんですね…」
  
  「そうだね、寂しいものだねやっぱり。最初はただのステップアップだと思ってたユニヴェールがさ、こんな想い出だらけの倉庫になっちゃうんだもん、びっくりだよ!」

  僕が比較的陽気に、おどけて校舎へと前に進もうとしたとき、自分の脚が止まった。

  「根地先輩、寂しいです」
  そう告げる彼女の右手は僕の服の裾だった。
  強く引っ張っているというわけではないが、僕の脚を止めるほどであった。
  
  「んー、少し寄り道していこうか」

  そう言って裾にあった手を掬い、繋ぐ。
そして、反対方向へと向きを変え、すぐ近くの公園に向かった。校舎前よりは桜を植えていないのか、あまり咲いていなかった。

  
  「少し前に立花くんに書いた曲、覚えてる?」

  それは、今日から丁度1週間前に贈った曲。
  大切な人に曲を贈るなんて、と思うだろうが、彼女は大層喜んでくれた。
  物覚えがいいとしても、びっくりするくらいすぐ覚えてくれたのも鮮明に覚えている。

  
  「それはもちろん」
  「それじゃあ、歌おうじゃないの。歌割りは即興にしよう、お互いを感じ合いながら楽しく愉快に!」

  彼女は少し驚いた表情をした後、はい!と元気良く頷く。
  そして、繋いでいた手を離し、少し離れた位置に立つ。
  彼女は目を瞑った。


  ◇◇◇

   
      約束した駅で 君が来るのを
      あの日から今日まで ずっと待っていた

  彼女は歌う。

      リアルとシュールとの その狭間は

  僕が応える。
   
      窮屈だね

  君もまた、応える。
    
      君が手を

  手がのびてくる

      そっと引くと

  その手を取って引き寄せる

     『風吹いた』

     ひそやかな 袖しずく
     君だけが 見透かした

  僕たちは誰よりも幸せな顔をしていたと思う

 
  伴奏さえあるかのように彼女は佇む
  手を繋いだまま一呼吸整える

     大げさな見映えも 虚栄心さえ

  会話をするように歌う

     もし

  君がこちらを見つめる
  
     君のことを救う なら薬だね

  あの時のように君へ近づく

     ああ

     真実がどこかで 待ち続ける

  それでも君は逸らさない

     そんなものが

  もう過去なのだから

     ないとして

  赦すように包むように

     かまわないよ

  今度は君が僕を引き寄せる

     『探させて』

     たまにはさ 不安だよ
     それでもね 大丈夫
 
  
  互いの水滴が手に付いた

     気づいたら 二人だね
     すこしだけ 自由だね


  ◇◇◇
   

  もう、空が半分も茜色になるところだった。

  「はー…好きだなぁ…」
  「私も本当に好きです」
  互いに目元がほんのり赤くなっていた。
  
  「我ながら、君を想いながら書いたとはいえちゃんと歌い、歌われるとぐっと来るものがあるねえ…満天才なんだ僕…およよ…」
  ふざけなければ、きっと堰を切ったように泣いてしまう。

  「そうですね!」
  彼女も涙を堪えて返事をしているようだった。

  「あ…!」
  思い出したように声を出す。
  「先輩達の送別会をできたらと思いまして、それの為に呼びに行ったの忘れてたぁ…」
  「あーらら」

  手を掴まれ、引っ張られる。
  「根地先輩!行きましょう!」
  「はいはい、最後までお騒がせな満天才として登場しましょうかね〜!!クラッカーとか持っていく?それともレッドカーペットなんか…」
  なんて、演出を考えていたら引っ張られていた脚が止まる。


  彼女が振り向く

  「黒門さん、好きです。卒業してもその後もずっと一緒にいてください。」
  
  桜がまた舞う。

  「…希佐、好きだよ。愛してる。もちろんずっと君のそばにいるよ、元よりずっとそのつもりだったしね。」
  僕が照れていることを彼女は分かったのか、彼女も頬を赤くした。
  
  僕たちの祝福を演出するかのように。

  
  「…じゃあ行きましょう!」
  と言うと、彼女は僕をまた引っ張って走っていく。


  片方の手で顔を抑える。
  可愛すぎる…。
  こんな事になるなら、神頼みするんじゃなかった…。
  僕はそんなことを呟きながらも最大限の感謝を着くまで心の中で述べ続けた。

9/10/2023, 4:04:29 PM