もうやめねえか、と震える声で親友が言った。半泣きだった。
「いいや、ダメだ」
たとえ俺が間違っていたとしても、ここまで来てしまった以上、もう後戻りはできなかった。ここに来るまで散々迷ったが、結局俺はここにいる。
夜の雑木林の中。懐中電灯の細い灯りを頼りに、道なき道を進んでいる中での出来事だった。
「腹ァくくれよ。これで成功すれば、俺たちヒーローだぜ」
来ない方が良かったか、なんて考えは捨てた。失敗すれば失うものは大きい。俺がこれまで築いた名声、信頼、全てを失うだろう。もちろん、それは一緒にいる親友も同じだ。だがそのハイリスクを背負ってなお、有り余るほどのリターンがあった。
「思ったより高いな」
雑木林を抜けた先、目的地の前には障壁がそびえ立っていた。それは前々から分かっていた事だが、予想より高さがある。想定外だ。自分の顔がさっと曇り、親友の顔がわずかに明るくなった。
「これじゃ仕方ねえって。戻ろうぜ」
俺を諌めようと、これ幸いに親友が説得を始めた。こんな壁登れるはずがない、仕方ない、ともったいぶった理由をつけて。
ここで諦めるのは簡単だ。だが、こんな絶好の機会はいつ訪れる? 次に今日この時と同じようなチャンスが巡ってくるとは、とても思えなかった。
父がいつか言っていた。男には退いちゃいけない時があると。俺にしてみれば、それは今だ。
「お前はそこで見ていろよ。壁がなんだってんだ。俺はこの先に行ってやるぜ」
「ナカジマ、お前……」
消極的な姿勢の親友に声をかける。計画段階では親友も乗り気だった。けれども土壇場で冷静になってしまうのが、親友の長所であり短所でもある。
壁を登り始めた俺に、親友はもう何も言わなかった。俺の行く末を見届けるつもりのようだ。壁さえ登ればこっちのもんだ。あんなに高く、遠くに見えた壁の最上部がだんだん近づいてきた。俺の期待もどんどん膨らんでいく。
両手がついに壁の淵にかかった。腹筋に力を入れると、体が持ち上がる。そして俺は高鳴る胸を深呼吸で落ち着かせ、壁の向こうを覗き込んだ。
ハゲだ。ハゲがいる。
壁の向こうは、俺が予想していた女の花園ではなかった。むさ苦しい男の掃き溜めだった。
「コラァ! ナカジマァ! そんな所で何やっとるんだ!!」
俺を見つけたハゲの怒鳴り声が浴場にこだました。
そういえば、と思い出す。この合宿施設の風呂場は一箇所しかないから、時間帯で男湯と女湯が入れ替わるんだったっけ。どうやら必死になって俺が壁を登っている間に、女湯から男湯への交代時間を迎えたようだった。俺は女湯覗きの計画失敗を悟った。
こうして俺と親友は呆気なく御用となった。この後にはハゲこと生活指導の先生の説教が控えている。俺はため息をついて天を仰いだのだった。
テーマ「たとえ間違いだったとしても」
男子学生の能動的スケベバカ話
4/22/2026, 12:33:12 PM