私は泣き叫びながら体を揺さぶってくる妹の頭を撫でる。
唐突な揺れ。
対応できずにいるうちに家は倒壊し、柱やタンスに押しつぶされ父や母は死んだ。声が聞こえないところから、隣の部屋にいた祖父と祖母も同じだろう。
私は天井の梁が落ちてきそうな妹を庇い、下敷きになった。
足の感覚が無い。腹から生暖かい何かが吹き出し、妹の顔や手が汚れた。
遠のいていく意識を必死に繋ぎ止めて、最期まで妹に触れる。
この子はまだ中学生だ。私を「お兄ちゃん」と呼びながら涙を流す姿には、まだあどけなさが残っている。
「………――。」
私は震える声で妹の名前を呼んだ。
「…突然の別れは、そう珍しいものじゃないよ」
この子が、これからも前を向いて生きていけるように。
私達に、縛られることがないように。
またあの明るい笑顔で、笑ってくれるように。
「何があっても、生きるんだ。」
私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「おばあさんになるまで生きて、温かいベッドで家族に囲まれて死ぬんだ。」
心優しくて明るい妹なら、すぐに良い人が現れるだろう。
それを祝福できないのだけが、心残りだ。
私は最後の力を振り絞って、それを妹に伝えた。
「生きて。」
5/19/2024, 12:11:20 PM