かのこ

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『脳裏』2023.11.09


 脳裏に浮かんだのは、この黒ずくめの男がただものではないというヴィジョンだ
 己の力で勝てる見込みはないし、逃げ遂せることも出来ないだろう。
 なので、慇懃に「こんにちは」と話しかけてきた男に、同じように挨拶を返すことしかできない。
 厄介なヤツに好かれてしまった。
 オレがこうして「ここ」にいることが面白いらしく、男は小難しい言葉を並べながらニコニコと笑う。
 よくよく話を聞くと、オレの古巣にいたリーダー格とこの男は遠い親戚のようなものらしい。
 そんな気はしていた。文字を多く並べたような言い回しも、紳士然とした態度も。そして、辞書に載っているような「笑顔」も。
 胡散臭いと形容するにふさわしい男は、オレが気に入ったようで、食事にでもいかないかと誘ってきた。きっと断ることを是としないだろう男は、上手く表情筋を動かして、ニッコリと笑った。
 女の子なら卒倒しそうなぐらいの完璧な笑顔。端正な顔立ちからそんなものを繰り出されては、否とは言えないだろう。
 男の魅力はともかく、今のオレに否と応えるだけの猶予は無い。
 脳裏に浮かんだヴィジョンには、男が良からぬことをするイメージもいたからだ。
 だから、オレは甚だ不本意ではあるが是と応えることしか出来なかった。

11/9/2023, 1:36:57 PM