駒月

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 久しぶりに遠方の師範のところへ顔を出すと、紅茶を淹れてもてなしてくれた。

「よく来たね。相変わらずこっちは書類の山だが、気にせずゆっくりしていってくれ。何日滞在できるのかな?新しくできた店も紹介したいし、久々に手合わせもしたいね。ああ、君の部屋はそのままにしてあるけど、多少私の方でいじらせてもらった」
「師範は変わらねぇな」

 口から先に生まれてきたと思う程によく喋る。寂しがりの師範のことだ、俺が来て嬉しいんだろう。部屋はあとで確認しなきゃならない。

「もう皆ここには寄りつかないからね……君が来てくれてよかった」

 そうだった。亡くなったり引退したりで随分組織は変わったはず。

「そういえば小耳に挟んだんだけど、君、好い人がいるんだって?」
「な!どこでそれをっ」
「ふふ、内通者がいてね」
「内通者」

 誰だよ、このお喋り師範に教えてくれたのは。

「大切にしなよ?」
「当たり前だ」
「女性の扱いも教えればよかったね」
「師範に教わりたくねー。ろくな付き合いなかっただろ」

 悪態をついたけど、こんな話をするのは本当に久しぶりだったから、嬉しかった。離れた今でもこうして気にかけてくれてるのには感謝している。

「今度は二人でおいで。美味しいものをご馳走するから」
「えぇ……」
「そんな嫌そうな顔をされると傷つくな。安心したまえ、奪ったりはしないし、発言には気をつける……つもりだ」
「本当に頼むぞ、師範」

 微笑む師範。今日元気そうな姿を見られたのは収穫だった。
 とりとめもない話は、紅茶が冷めたあとも暫く続いた。




【とりとめもない話】

12/17/2023, 12:31:46 PM