「何度言ったらわかるんだ!!
こんなことすら出来ないならこの仕事は向いてないぞ!!!!」
バンッ!と必死にまとめた資料を乱暴に机に叩きつけながら、上司は私を叱咤する。
ーー向いていない
そんなこと言われなくても、1番自分がわかってる。
「申し訳ありません。至急修正します」
机に投げ出された資料を回収し、頭を下げる。
変に言葉を付け足すと話が長くなるから謝罪だけ言う。
何度もこの上司にダメ出しを貰うたびに身についた早く切り上げる知恵。
こんな知恵つけたくなかったなと思う。
「今日中に訂正して出しに来い。いいな」
は?今日中?
すでに時刻は15:00。この仕事以外に同時進行で進めてる案件も複数あり、どれも締め切りが近しいものばかり。
どれもこれも現在の自分のスキルより少しレベルが高い案件ばかりであったため余裕を持って進めていてもダメ出しで通らず進みが悪いのだ。
「今日中。わかったら早く席に戻って取り掛かるように」
返事がなかったからか、容赦ない言葉を追加でかけてくる上司。
「…わかりました。失礼します」
返事をする以外選択肢がないため憂鬱な気分で自席に戻る。
残業確定コース。最悪だ。
残業にならないよう必死にペース配分して進めてきてるのに、いつもこう。毎回こうだといっそ個人的に嫌われていて嫌がらせされてんじゃないかとさえ思う。
『災難だね。手伝えることあったら遠慮なく言ってね!』
隣席の先輩が社内チャットで気遣いをしてくれた。
気持ちだけでもとてもありがたい。
先輩も大きな案件の企画メンバーなため、本当に手伝ってもらうときはやばいときだけにしたい。
『今のところは大丈夫なためやばくなったら助けてほしいです;』
先輩へ返事をし、修正を命じられた資料を確認する。
チェックが入ってる項目は少なくない。
修正するための資料確認や情報精査に取り掛かる。
かなり時間を要するためあっという間に定時となり、殆どの社員は退社していった。
残っているのは自分と、上司だけ。
本当に嫌な空間だ。
私はもともと総務部所属を希望して入社した。
それなのに何故かマーケティング部へ配属され、自分のスキルより高い要求をされ、自分を嫌う上司がいて且つ今は他に人もいないという地獄。
早く終われ早く終われと思いながら必死に修正し提出する。
「まあマシになったから、今回はこれで受理する。
はじめからこのくらいの資料を作れるようになれ」
嫌味を言わないと受け取れないのか?!と思いつつオーケーが出たのでお疲れ様でしたと挨拶をし、足早にフロアを出てエレベーターに乗る。
エレベーターを降りたところでデスクにペンケースを忘れたことを思い出し、明日でもいいかなと思いつつ紛失でもして部内の人を疑うほうがやだなと思いため息をつきながら引き返す。
まだ上司は残ってるよな…と重い足取りでフロアに向かったが誰もおらず、自席のペンケースを回収し引き返そうとしたが、どこからか話し声が聞こえて足を止める。
どうやら会議室のほうから声が聞こえてくるらしい。
こんな時間に会議なんてないよな?という疑問と怖さもあったが、好奇心が勝り誰がいるかだけでもわからないかと少し様子を見ることにした。
どうやら声の主は自分の上司と商品開発部の部長らしい。
次の会議の打ち合わせかであれば自分が聞かないほうがいいだろうと思い立ち去ろうとした時に、商品開発部の部長の声で自分の名前が呼ばれた気がして立ち止まった。
振り返るも人影はなく、自分を見つけて呼んだのではなく話の中で私の名前が上がったらしいことを認識した。
自分の名前が出るような話とは何だろうと気になってしまい、良くないことだがどんな話をしてるか聞いてみたくなった。
「そういえばきみの部下の子、今日も厳しく叱ってたねえ。
フロアが違う僕のところにも話が届くくらいだから、だいぶ本人は参ってんじゃないかな。
今時はパワハラだの何だのってうるさいし、若い子は別の会社に直ぐに移っていっちゃうからもう少し優しくしてあげたらどうだい?」
商品開発部の部長が上司に向かって問いかける。
え?私が上司に怒られてるのって他部署にも筒抜けなの??
他部署にも知られているという羞恥と、自分を擁護する言葉に共感しつつ上司はなんと答えるのかと言葉を待った。
「アレでいいんです。今後も対応を変える気はありません」
「でもねぇきみ…」
断固として自分のやり方を変える気がない上司の回答に、商品開発部の部長は戸惑う。
部長!もっと言ってください!私の勤務環境変えてください!!と心の中で応援していると、戸惑う商品開発部の部長に上司が告げた。
「アイツはまだ伸びしろがあります。
ただ、本人がそれに気づいておらず現状が自分の限界だと思ってる節があります。
丁寧に伝えたり希望的な伝え方をするとお世辞と受け取る傾向がありそこまで伸びません。
厳しいと思われるかもしれませんが、実践してスキルを伸ばす方が伸びがいい。
アイツがこの先大きな案件を任されてもやりきれるように、私はやり方を変えるつもりはないです。」
「そこまで見据えてるとは…僕がとやかく言うようなことじゃなかったようだね、忘れてくれ。
来週の会議の打ち合わせをして、今日は帰るとするか。」
帰る気配が出てきたため鉢合わせないよう慌てて会社をあとにした。
帰路では上司の言葉が反芻していた。
正直、嫌われてそうされてると思っていたので自分のためと知って驚いた。
確かに褒めて伸ばすという手段をされた場合、褒められるのは嬉しいが自己評価が高くはないためお世辞ではないかと思い今が限界だと思うところがあるのはわかっていた。
今よりも伸びると信じてくれて、伸ばそうとした結果がアレかと思わなくもない。
キツくてやめたいと思ったことも一度や二度ではない。
それでも、期待されてると知ってしまったからにはいつか上司にダメ出し無しで良くやったと言わせたい。
今日聞いてしまったことは自分だけの秘密だ。
きっと明日からも今までどおりダメ出しの嵐だろうけど、目の前の仕事と戦うんだ。
打倒!上司のダメ出し!
頑張れ明日からの自分!
【きっと明日も】
9/30/2024, 4:09:20 PM