銀時計

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『星空』13/419
「あっ!パパ、みてみて、流れ星だよ!」
「おお、珍しいね。どこだい?」
「あっちの空にね、ひゅーっ、て飛んでったの!」
「残念、パパも見たかったなあ」
「ねえパパ、どうして止まってる星と動いてる星があるの?」
「うーん、難しい質問だね。パパは詳しくないから…ママが帰ってきたら一緒に聞こうか」
「うん!ママ、ものしりだからね!」

⸺遅いな。もうとっくに帰っていても良い時間だが…
壁掛け時計は21時半を指している。
絢もママを待とうと頑張っているが、そろそろ限界も近そうだ。
「絢、もう遅いからおやすみしようか。流れ星のことは明日聞こう」
「やだ、待つもん…」
とろけた声が返ってくる。
「…そうだ、絢ちゃん。パパ、星についてのお話をしてあげようか」
小さな頭がこくん、と動いたので、僕はソファに寝そべっていた絢を寝室に抱えて行く。

『星の銀貨』。グリム童話でも有名なものの一つ。
絢をベッドに寝かせ、自分も添い寝しながら、読み聞かせをする。
「…おしまい。どうだったかな…って、もう寝てるね」
短い話だったのだが、絢は小さな寝息を立てていた。
どうやらだいぶ無理をして起きていたみたいだ。
起こさないようゆっくりと体を起こし、寝室を後にする。
そうだ、常夜灯は点けておかないと、ママに怒られてしまうな。

…紬はいつ帰ってくるのだろう。これほど帰りが遅くなったことは今まで一度たりともなかった。
頭を、不安が掠める。
銀貨なんて要らない。紬を連れてきてくれればいい。
初めて、流れ星に願った。

夜空を見上げると、彼方から星が一筋、こちらへ向かってくるところだった。

7/5/2024, 8:39:11 PM