その日は、母の葬儀だった。
準備や諸々の手続きに忙殺され、葬儀中はお決まりの言葉や尚香の際のお辞儀に応えなければならなかった。
そのため、悲しむ余裕さえなかった。
葬儀は残された人のためにあると思うが、僕自身のための時間は取れなかったように思う。
それが悲しいへの防衛手段だったのかもしれないが。
葬儀が終わり、僕はやっと煙草を吸うために、外に出ることができた。
身も心も疲弊した僕とは反対に、空は青く透き通っていた。
煙を吸い込み、吐く。
灰を落とす。
この一連の動作が、今の僕には何よりも必要だった。
落ちていく灰を目で追っていると、アスファルトの上を歩く2匹のてんとう虫を見つけた。
2匹は横に並んで、一生懸命に歩いていた。
その姿に親子の姿を映し見てしまうのは仕方なかった。
2匹の距離は近く、手が重なる瞬間には、手を繋いでいるように見えた。
その繋がっている手には、母子という動物本来の力強さがあった。
歩いたことに満足したのか、1匹が飛び立とうとした。
しかし、もう1匹は羽を広げることはできなかった。
何とか一緒に飛ぼうと、もう片方が懸命に手を引くが、それは叶わなかった。
少しの間2匹は、向かい合っていた。
その後1匹は、もう1匹を残して飛び立っていった。
名前の通り、太陽へまっすぐと飛んでいった。
太陽の光が目に入ってくると同時に、涙がこぼれた。
もう1匹のてんとう虫は、手を振っているように見えた。
3/20/2025, 3:23:45 PM