光が差し込む。窓辺に一通の手紙。
初めまして。いきなりですが、今夜貴方を奪いに行きます。
突然のお話でびっくりさせてしまったことでしょう。
私は怪盗M。闇夜にまぎれるただのしがない怪盗です。
貴方を初めて見た時、明るく眩しい笑顔に目が吸い込まれました。風に吹かれてゆらゆらと金色に輝く貴方の髪。恥ずかしそうなえくぼ。ピンとはった背中からはどんな逆境にも負けないほどのエネルギーを感じました。貴方に一目惚れをしたのです。
ただ次に会った時の貴方は、まるでこの世の全てに絶望しているかのようでした。金色の髪はくすみ、まるで幽霊のようにうなだれていた。
私は心配で心配でたまらなかった。何があったのかと優しく包んであげたい衝動に駆られました。
風の噂によると婚約者のせいだそうですね。
貴方に熱烈な愛を語っていながら、異国の女性にも愛を囁いていた。それを知ってしまったのですね。でも貴方は健気にも婚約者が自分のもとへ帰って来た時は素晴らしい笑顔を見せる。さぞ苦しいでしょう。
最近の貴方はずっと下を向いています。私にはあの笑顔を向けてくれない。私ならそんな顔をさせません。
悲しい思いはさせない。
今夜貴方を奪いに行きます。
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台本から顔を上げる。眩しいスポットライトが彼女らを照らす。舞台袖と舞台の上は明確な線が引かれている。明かりの下を歩けない僕らはただ成り行きを眺めることしかできない。
クライマックスだ。主役が彼女を抱きしめる。彼女は幸せそうな表情で腕を回す。全て僕の書いた台本通り。美しいヒロインに一目惚れした怪盗から彼女を救い出すお話。主役俳優に恋する彼女のために書いたお話。
観客が割れるような拍手を送る。僕も暗闇から拍手を送る。影に生きるしがない脚本作家と華やかで煌びやからな光に照らされる彼女。住む世界が違う。
彼女は気付いただろうか。僕からのラブレターに。
11/25/2024, 11:21:26 AM