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『怖がり』

 あなたは昔から怖がりだった。小さな頃はどこに行くにも私の後をついて回っていたっけ。少しの物音にもびくりと金の巻き毛を揺らして、震える睫毛から覗く青い瞳も揺れていた。あの頃は私の方が背が高くて、人見知りで怖がりなあなたをよく背に庇っていたわ。しがみついてくる細い腕が、まるで弟みたいで愛しかった。
 いつしかあなたが私の背を追い越して、輝くような金の巻き毛は落ち着いたダークブロンドに変わって、人見知りもずいぶん治って、貴公子様なんて呼ばれるようになって。あなたはずいぶん遠くに行ってしまった。社交界でも中心に近い位置にいるあなたは、私の背で震えていた小さな少年とは違うのに、私の目はまだあなたを追ってしまう。あんなに立派な青年になって、それでもまだ私の前では臆病な少年みたいに気弱なまま。えへへと幼く笑うその顔を、知っているのは私だけ?他の人といると疲れるなんて言うあなたは、私の前で見せる怖がりが素の表情だっていうの?私を見つけるとパッと笑顔になるのは昔から変わらないのに、昔と違って私の胸はときめいてしまう。
 叶わないとわかっている想いを捨てられなくなる前に、どうか私から離れて行ってほしい。思うばかりであなたを拒絶できない私の弱さに、あなたは甘えているのかしら。本当は犬も雷も怖くないのでしょう?いじめっ子だった彼らにも簡単に勝てるくらい強くなったのでしょう?気付かないフリをしていることも、あなたは知っているのかしら。猫を被るのが上手になったあなたの本心は、私にだってわからない。このまま行き遅れになってしまったら、誰が責任を取ってくれるのだろう。それでも私は、訪ねてくるあなたを笑顔で迎える他はないのでしょうね。私にだけ見せるあなたの弱さだなんて、甘美な蜜を捨てられないのだから。

3/17/2023, 10:41:59 AM