トト

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お気に入りの物は、何もかも捨ててしまった。

家ごと捨てたのだから。

けれど、その時はそれで良いと思った。というか、それどころですらなかったのだ。

そんな私が心の拠り所にしていたのは、とある公園だったのかも知れない。

誰の設計なのかは知らないが、見晴らしの良い、広さのある美しい公園で、昼間はそこでしばしの安らぎをえていた。

夜もそこで過ごせれば良かったのだが、夜間は門に錠をかられてしまった。どこかに隠れていれば、居られたのかも知れないが、見つかった場合、出入り禁止にでもされてしまった日には、取り返しがつかないではないか?

近くのコンビニで、淹れたての珈琲を買い、公園の椅子に座ってそれを飲むのが、私の最高の贅沢なのであった。

私は酒好きで、あらゆる酒を好んで飲んだものだが、コロナで酒量は大きく減った。何ヶ月かは一滴も飲まなかった。

もともと珈琲はかなり好きだったが、酒の方が上だとずっと信じていた。

けれど珈琲の方が上だったのである。自分でも意外だったが、酒は辞められるが、珈琲は辞めたくない。

その公園から、私はある種のエネルギーを感じていた。大地と空から気を分けてもらっていたのだと思う。そして1杯の珈琲と。

少しだけ、しあわせだった。

2/17/2024, 7:30:37 PM