紫月

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 温かい小さな手を引いて歩いた道。
 
 ヘリコプターや飛行機の音で足を止め、空を見上げる。名も知らない草や花、工事現場の車、パトカーや消防車を見かけるたびに足は止まり、少しの段差も見逃さずに登っていたあの頃は、目的地まで何分という地図アプリの予測など何も意味を持たなかった。

「ママあれは何?」

「ママ見て見て!」

 凍てつく冬の風が吹き付けても、貴方が笑い楽しみ、ギュウと握り返してくれた手があるから、ゆっくりと歩いても苦ではなかった。

 次第に手を繋がずに歩くようになり、一緒に歩く時間も減り、貴方の世界が広がり、会話する時間さえも年々減っている気がする。成長した事は嬉しいけれど、嬉しさとともに寂しさを感じてしまう事については未だに慣れない。毎日のように歩いた道には、貴方の思い出が沢山残っていて、思い出にはない私の赤く悴む手が此処に存在している事が異質に感じられる。

 というか、自分の手の色なんて気にかける余裕がなかったのよね。

 予定通りに目的地まで着いた私は、冷え切った両の手に息を吹きかけ、この手から離れていった温もりを少し思い出すのだった。


『寒さが身に染みて』

1/11/2024, 2:52:50 PM