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 ──これは夢だ。直感的にわかった。世の中には明晰夢、と呼ばれるたぐいの夢があって、たぶんそれなのだと思う。
 だって、そう。絶対におかしい。──キミが私の隣にいるなんて。
 楽しそうに微笑んでいるなんて。
 やさしく話しかけてくれるなんて。
 嬉しそうに、この手を取ってくれるなんて。
「……ちょっと、黙ってないでよ。返事、教えてよ。……足りないなら、もっかい言うけど。──ねえ。私と、付き合って」
「──」
 だから。これが都合のいい夢だってことは、ほんとにほんとに、わかっていて。目が覚めたときに余計に傷ついてしまうことも、よくよく理解している、のだけど。
 人間の心って、そう簡単にはできていないのだ。──幻のようなこのひとときが、ひどく甘美に思えてしまうから。
「うん……うん……!」
「! ほんと!? ……って、泣いてるの? まさかイヤイヤうなずいて──」
「違う……違うんだ……うれしくて。……あんまりに、嬉しいんだ。あり得ないってわかってるんだ。それでも──それでも、私はキミが好きなんだ。諦められないんだ。──好きだったんだ。どうしようもなく」
「……なに言ってるかはよくわかんないけど……付き合って、くれるの?」
「うん。うん、そうだよ。そんなのこっちのセリフだけど、そう……付き合おう。私達」
「──嬉しい。まるで夢みたい……!」
 そんなことを言って、キミが私に抱きついてくる。あは、と声が漏れた。夢みたい? そのとおりだよ。これは夢だ。夢なんだ。幻影《ユメ》でさえキミは残酷なんだね。でもいいんだ。いつか覚めてしまうとしても、起きてから喪ったものの大きさに絶望してしまうとしても、それでも、私。

 このひとときの為ならば、命だって捧げられると思うんだ。

8/3/2023, 10:45:07 AM