139

Open App

 昔、この辺りはそれはそれはとても美しい情景だった。瑞々しい緑に、色とりどりの花々が咲き誇っていて。ほら、あそこに少しだけ溝があったでしょう。あそこは透き通るほどの綺麗な川が、あの山から流れてきてたんです。
 私はその景色が大好きで、小さい頃から家事手伝いをサボってはここで駆け回っていて。母には叱られたものです。

 人の心は変わる。
 情勢も、流行も、モノや形も。
 でもここから見る景色だけは、私の小さい頃から変わらなかった。

 ずっと、変わらないものだと思っていた。

 今や、ご覧の通り。
 川が枯れ、草木の痕跡はなく、大地の肌が見えている。私の好きだった景色は、見るも無惨なこの有様になりました。
 挙句、今度はあなた方が開拓地として選んだって。
 都会のように建物がいっぱい並ぶ、近未来の都市にされるんでしょう。

 いいんですよ。こんな年寄りの戯言など聞かなくて。
 ただ、このやるせない気持ちを、吐き出したかっただけなんで。



『変わらないものはない』

12/26/2024, 11:43:07 PM