もも

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『ブランコ』

久しぶりの里帰り。昔遊んでいた公園はあの頃のままいつもの場所にある。
昔はあんなに高かった滑り台のてっぺんも、今となっては私の頭より少し高いくらいであの頃の自分は小さかったんだななんて一人で笑ってしまう。
何もかもが懐かしい場所を見て回れば思い出すのはここで泣いてた時にいたお兄さん。
金髪のサラサラの髪に、青い瞳で整った顔を見た瞬間天使が遊んでいるのかって思ったくらい、この田舎の公園には不釣り合いな人だった。

あの頃の私はまだ真ん丸に太っていて、緑色の髪も相まって皆から『芋虫!』なんていじめられていたから、いっつも一人でこの公園のブランコに座りながら一人どうしたらいいかわからなくてぼんやりと空を眺めるのが日課になっていた。
その日も男子に囲まれて、『芋虫』『汚い』『消えろ』の連呼と、後ろで申し訳無さそうにしながらも何処かニヤついてる女子の目線に耐えきれなくて、ボロボロになったランドセルを抱えながら公園まで逃げて一人ブランコに座って泣いていたら

『どうしたの?』

そう声とともに、目の前に綺麗なお兄さんが立っていた。
一瞬その綺麗さに目を奪われ自分を迎えにきた天使かと思ったけれど、真っ黒な服は自分のお兄ちゃんも通っている中学の制服で、人間なんだって直ぐわかった。

『私は太って芋虫みたいだから、汚いんだって。
掃除用具とか私が触ったりすると皆触りたがらないの。
あんな芋虫が触ったやつなんか気持ち悪いって…
消えろっていつもランドセルとか投げられて、こんな風になっちゃた
怖くて、お母さんにも、お父さんにも、お兄ちゃんにも言えない。
学校…行きたくないよ。』

今思えばあってはならないが、あの頃特有の些細な事。
目立つ誰かをからかいたくなって、良くわからないままに攻撃してしまう。流せばいいのかもしれないがまだ集団生活をしだして一年か二年かそれくらいの自分には生きるのが辛いくらい深刻だった
ぎゅっとランドセルを抱きながらもう学校に行きたくないと泣いてしまって、上手く進まない見知らぬ私の話を、お兄さんは目線を合わせて何も言わず頷きながら聞いてくれた上に

『君は芋虫でもなければ汚くもない。ちゃんとした女の子だよ
見た目で判断されるのはつらいよね。
怖くて苦しい思いを俺に話してくれてありがとう。
辛い事があって逃げる事も凄く勇気がいる事なんだよそれを君はしたんだ。偉いよ』

優しく微笑みながら力強く頷いてくれた。
自分が太って緑の髪をしてるからなんて思っていた私には、そのお兄さんの言葉が嬉しくて、ますます泣いてしまった
学校から昼休み中に消えててしまったと連絡を受け必死に探しにお母さんが来るまでお兄さんは私の側にいて慰めてくれて、抱きしめながらごめんねと謝るお母さんに事情を話した後、また私の視線に合わせしゃがみ込むと袋を差し出して

『俺も、見た目で色々言われたから。
でも、君も頑張ったから俺も頑張ってみるね。
今日授業で俺の作ったお菓子。
よければ食べて』

そう告げて行ってしまった。
中身はハートとか星とかの普通のクッキーだったけどどんなお菓子より一番美味しかった。

「あのお兄さん、今何してるのかな
お礼言いたいな」

あの日救われたブランコに座りながら空を見上げる。
昔の様に太った自分はもういない。あの日救われたように誰かを救いたくてカウンセラーを目指して勉強している。
あのお兄さんさんは今何をしてるのだろう
ブランコ揺れる心地はあの日の気持ちみたいに優しく穏やかだった。

私があのお兄さんに会うのはこれからもう少し後。
それはまた別のお話。

2/2/2024, 6:01:04 AM