NoName

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 街へ繰り出そう。頭のなかが幸せじゃなくても、鳴り響く音楽が俯く自分のことを否定してくれるでしょう。それが苦しくてうまく歩けないときは、イヤホンをつけて閉じこもってしまいましょう。
 人混みを歩く。知らない人生を無数に通り過ぎていく偶然の星を抜ける。僕たちは可哀想なくらい抜け出せない環の中だ。苦しんでない人のことは乗り越えなくていいし、考えなくていいよ。星の降るようなキラキラした音が鳴っている。星に音なんかないのに。目が覚める。
 ショーウィンドウ、鮮やかなカーディガンを羽織った幸せそうなマネキンが、黒いコートの軍団をガラス越しに見つめている。待ち合わせ相手と会えた学生が跳ねる。笑顔の家族の押すベビーカーがすべてにぶつかりませんように。
 一人になっていたいけど一人は許されないから背負った善性なんてもの、幸せになるためには特に役に立たない、ホットミルクの味もよく知らないままにアールグレイを頼んで今日も逃げた。選ぶべきは悪辣だってこと?
(そんなことないよ。それだっていいよ。社会はそんなふうにできていないよ)
 結局何が実を結ぶかなんて答え決まってないってこと。

1/28/2026, 5:14:11 PM