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ーもうちょっと良い人いなかったの?

両親に結婚の報告をした時に言われた言葉だ。その時は彼のことを侮辱された気がして、両親と口論になった。
そんな彼と結婚して3年が経った。
相変わらず両親は彼と結婚したことが気に入らないようで、結婚してからは正月以外は顔を合わさない。
私も会うたびに彼の愚痴を聞かされてうんざりするので、これぐらいがちょうど良い。
ただ、両親の言い分も理解出来なくはない。一人娘で子供の頃から成績の良かった私は地元の高校卒業後、国立大学に進学。卒業後は、大手金融機関の事務員として働いた。
両親いわく顔もそんなに悪くはないのだそうだ。
大事に育ててくれたのは、想像に難くない。
彼とは、大学在学中にコンビニでアルバイトしていたときに出会った。その職場の先輩である。
当時、彼にどこの学生か訊いてみると、フリーターと返ってきた。
同じシフトに入ることが多く(彼はフルタイムに近いシフトなので自然とそうなるのだが)、ある日仕事終わりに告白をされた。
最初に告白されたときは断ったが、何度もアプローチを掛けられているうちに根負けしてしまった。
彼は私と付き合い始めると、突然就職活動を始めるようになった。
なぜ急に?と訊くと、付き合うときに言ったじゃん、と困り顔で返された。
彼は何百通と書類を送るが、紙ぺら一枚で何度も振りだしに戻された。
私は彼より後に就職活動を始めたのだが、私の就職活動が終わっても彼は書類を送り続けた。
そんな彼の就職先が決まったときは自分が内定を貰ったときよりも飛び上がった。
彼はコンビニを辞め、中小企業の営業マンとして働いている。
ガチャ
扉が開く音がした。
ーただいま
扉の音ともに彼が帰宅する音が聞こえた。
私は壁の時計に目をやる。時刻は10時を回っている。
読みかけの小説に栞を挟み、玄関へ向かう。
ーおかえり。ご飯出来てるよ。
彼は、ありがとう、と疲れた顔でにっこり笑う。
遅くなって謝る彼に、自分は既に夕食を済ませたことを伝える。
少し肩を落とした彼の手には紅い色の花束が握られている。
ーこれ。今日、誕生日だよね。ケーキも買ってきたから後で一緒食べよ。
彼は花束を差し出し、おめでとう、と口にする。
ーありがとう。でも、忙しいんだから毎年、無理に買ってこなくても良いんだよ?
誕生日には花束、結婚記念日には少し高価なレストランでの食事が私達夫婦の恒例行事になりつつある。
彼は靴を脱ぎながら、その日にしないと忘れそうだからと答える。
私は短い廊下を歩きながら花の香りを楽しみ、彼とはダイニングで別れた。花束の中から活きの良さそうなものを何本か抜き取り、適当な長さに切り揃える。
花瓶に水を入れ花を指す。
彼が着替えを終え、机に着くと、頂きますとの声とともに用意していた食事に手を付ける。
私は彼の向かいに腰を掛け、うまいと言った彼を見ながらほんのり甘い花の香りに身を寄せる。

11/22/2023, 11:07:49 AM